第6章 流されて異界
第143話 太陽を纏いし女
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赤い表皮が焼け爛れ、巨大な身体を構成していた血が、肉が、骨が、次から次へと発生しては弾ける大きな泡へと変化……まるで煮えたぎった溶岩の中から湧き出して来る火山性ガスの如き様相を呈しながら、炎と、そして大気へと還元されて行く。
そう、高坂の地に首だけが顕現していた古の蛇神の姿は既になく、周囲には世界を焼き尽くすかに思われた炎の残りと、血と肉の焼ける胸が悪くなるような――死そのものの臭い、
そして何時の間にか取り戻して居た、冬至に相応しい冬の気配と、奥羽の山より吹き下ろして来る乾いた風が支配する夜へとその相を移していた。
彼女が離れた瞬間、その場に膝を突いて仕舞う俺。周囲は未だ死の気配を色濃く残してはいる。しかし、それはおそらく残滓に過ぎない。
確かに、荒らされた……主に荒らしたのは俺なのだが、荒らした龍脈は早急に調整を行わなければならない状態でしょうし、高坂の中央公園内に残る死や怨の気配も急いで祓わなければ、明日の夜には新たなるミステリースポットとしてインターネット上を賑わせる事にもなりかねない状態だとは思いますが……。
それでも――。そう考えてから大きく息を吐き出す俺。
それでも、少しの休息は必要。昨夜からずっと動き詰めの状態。更に、かなり高度な術の行使や、普段とは違う精霊を大量に使役した事に因る消耗などを考えると、これは流石に仕方がないでしょう。
少し頭を垂れて、閉じた目蓋を手の平で覆う俺。冷たい大気に冷やされた木製……桜の木により作り出された右手は適度に冷たく、しかし同時に、金属ではない生身の温かさを感じさせ、疲れた体には非常に心地良く感じられた。
これから日が昇り、朝に至るまでの短い間。……今日は日曜日なので、多くの一般人が動き出すまでは多少の余裕があるとは思うが、それでも早い段階で神隠しなどが発生しかねない地点だけでも穢れを祓う必要がある……はず。
かなり重い身体。戦闘が終わった瞬間に最低レベルにまで落ち込んで終った体調。それでも、現在の状況は自分が蒔いた種で有る以上、これから到着する増援……事後処理役にちゃんとバトンを渡すまでは頑張る必要がある。
一応の覚悟が完了した時、俺の右側に微かに聞こえる土を踏む足音。そして、同時に聞こえる涼やかな鈴の音。
「お疲れさまでした」
彼女……今掛けられた弓月桜の声に、直接疲労の色を感じる事はない。但し、彼女から霊道を通じて流れて来る気配からは、今の彼女が虚勢を張っているのが明らかな兆候を伝えて来ていた。
行使した術式の質、及びその数。最後に俺から龍気の融通を受けたとは言っても、大祓いの祝詞を完成させ、砦を、そしてさつきを護るために現界させた蟲の数の多さ。この辺りから推測すると、今の弓月さんが立って居られるだけでも
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