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八神家の養父切嗣
五十一話:問答
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姿だと言っているのです!」
「フン、これだ。お前達は未だに闘争という最悪の禁忌に尊さがあると(はや)し立てる。綺麗ごとを並べ立てて掛け値なしの地獄を“悲劇”という演劇に見立て、ありもしない尊さ(幻想)に酔いしれる」

 剥き出しの憎悪はシャッハとフェイトに向けられているようで全く別の存在に向けられているようにも感じられた。それはまるでこのような悪逆を犯し続ける人類というまるで成長しない子どもに対して激怒しているようだった。

「幻想ではありません。例え善行だけでなくとも、古より続く人の歩みは美しく尊いものです!」
「冗談じゃない…ッ。敗者の痛みの上にしか成り立たない勝利などただの罪科に過ぎない! なのに、人類はどれだけ死体を積み重ねてもその事実に気づこうとしない!!」

 そこには人類を信じて裏切られた男の絶望があった。かつて彼は誰よりも未来を、正義を信じていたはずだ。だが、どれだけ彼が努力しようとも、惨劇が世界そのものを滅ぼそうとも人間は変わらなかった。そのうちに自らが必要悪となり、その悪すらも否定することになった。もはや彼の心には絶望と妄執しかない。

「貴様らのように争いを美化するから奴がいるから人間の本質は石器時代から一歩も前へ進んじゃいないんだッ!!」

 何度も同じ過ちを繰り返し続ける人類に失望したからこそ、その手で人類の救済を願う。まるで旧約聖書で神が人間に見切りをつけてノアの家族以外の人類を滅ぼしたように浄化を試みる。そうでもしなければ殺してきた者達に示しがつかないために彼はこの世界を塗り替え滅ぼす。全ては人類を救うために、たった一人のエゴをぶつけ続ける。

「確かに……人の歩みは遅い。一歩も進んでいないかもしれない。でも、だからと言って進んでいないわけじゃない。人間は決して進んでいないわけじゃない! だからたった一人の人間が勝手に決めていいことじゃないんだ!」
「そうです。そもそもたった一人の人間に救えてしまう世界など、あってはならないのです」

 一人で世界を救う。これだけ書けば大偉業としか受け取られないだろう。しかし、実態は一人が望む救済の形を残りの全ての人間に押し付けているだけだ。不老不死になりたくない人間など少し尋ねて回れば簡単に見つけられるだろう。

 自分が悲しみを乗り越えた過去を無かったことにされたくない人間はさらに多いだろう。だというのに、衛宮切嗣は己のエゴの為に世界を救う。全ての人間の意思を踏みにじり、無視しながら。だからフェイトとシャッハは暗に言うのだ『たった一人の人間に救えてしまう世界なら、いさぎよく滅びるべきだ』と。だが―――

「なら、全ての人類で救えばいい! でも、誰も救おうとしないから結局たった一人で救わなきゃならないんだッ! 今まで救おうともしなかったくせに知っ
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