五十一話:問答
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ているだけだ。
この世全ての悲しみを取り除く所業は、確かに奇跡と言える価値がある。しかし、その悲しみを懸命に受け止めて、日々を生き抜き、生を全うしてきた人々の努力はどうなってしまうのだろうか。全てが救われるということは彼らの人生そのものの否定となる。少なくともフェイトにはそう感じられた。
「……ああ、そうかもしれない。でも、君にだって生きていて欲しかった者達が、救うことの出来なかった者達がいるだろう。彼らが救われることすら君は否定するのかい?」
その問いかけにフェイトはある女の子を思い出す。助けようと必死に抱きしめたその腕の中で息を引き取ってしまった子。生きていて欲しかった。死んでなんて欲しくなかった。笑顔で笑っていて欲しかった。その子が救われるのならどんなに素晴らしいことだろうか。未来を奪われた子どもに再び未来を歩ませる。これが悪であるはずがない。
「私は……否定したくない」
「フェイト執務官…?」
「そうだ、それが正しいことだ。君は世界を平和にするべきだ」
俯き切嗣の意見に肯定するような言葉を呟くフェイト。シャッハはそれに恐れるような表情をし、切嗣は僅かに安堵の表情を覗かせる。だが、フェイトが顔を上げた瞬間にその表情は苦々しいものに変わる。
「でも―――あの子達が生きた証を、ありがとうって言葉を否定するのはもっと嫌だ」
もし、全ての人達が救われてしまったらあの子の言葉はどうなるのだろう。自らの死を感じ取りながらも最後の最後に想いを込めて言ってくれた言葉『ありがとう』。それは生きた証であり、あの子のありったけの感謝。
全てがなかったことになればそれすらも意味が無くなる。例え、その子自身が生き返ったとしても生きた証を否定したことに変わりはない。だから、フェイトには切嗣の言葉を受け入れることはできなかった。
「……シスターシャッハ、君はどう思う?」
「同じく。悲しみや嘆きは確かに肯定されるべきではありません。ですが、肯定されないからこそ忘れてはならないものです。無かったことにするなどもってのほか、あなたは未来に願いを託すべきです」
自身の願いを否定し聖職者らしく諫めるシャッハに切嗣は溜息を吐き、目を瞑る。納得してくれたかと期待し二人が見つめる中再び瞳が開かれる。その瞳は、果てしない怒りと憎悪に満ちていた。
「そうか……君達も―――血を流すことの邪悪さを認めようともしない馬鹿どもか…!」
これ以上の殺意を込めることなど到底できないような低い声で切嗣は二人を侮辱する。彼には決して許せない。人が闘争を行うことが、殺し合うことが、誰かが血を流すことが……決して認めることが出来ない。
「そんなことはありません! それらの悲劇を乗り越えながら未来に進むことこそが人間のあるべき
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