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油断はさせない
第二章

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「私の打つ手にはね」
「何か色々考えてるみたいね」
「それもはっきりした手を」
「だから余裕があるのよ」
 自分でも言うマリーだった。
「私にしてもね」
「貴女余裕ないとすぐに焦るからね」
「それが顔にも出るし」
「今はそうした顔よね」
「テスト前とは違って」
「テスト、特に数学は別よ」 
 実はマリーは学業の方は苦手だ、通っている高校でもお世辞にしても成績はよくない。特に数学はいつも追試スレスレだ。そうした時はマリーも焦る。
 しかしだ、今の彼女はというと。
「けれど今は自信があるから」
「余裕なのね」
「そうなのね」
「そうよ、見ていてね」
 それこそと言ったマリーだった、そして。
 その手を打っていった、その手は。
 その彼氏、ジルのところに行ってだった。そのうえで。
 彼の傍に来た。黒髪を短くしていて精悍なサッカー選手の様な顔立ちだ。黒い目がきりっとしていて唇も引き締まり顔の彫が深い。
 背は高く脚がすらりとしている、細身だが筋肉質で体操選手の身体を思わせる。
 その彼のところに来てだ、こう言うのだった。
「ねえ、今度ね」
「今度って?」
「何処か行かない?」 
 ジルを上目遣いで見つつ言うのだった。
「カルチェ=ラタンに」
「そこに二人で?」
「ええ、行かない?」 
 上目遣いで見たままだ、彼の腕を取ってだった。
 さりげなく自分の胸にその腕をつけてだ、彼がその感触を微かにだが表情に出したところでさらに言った。
「私一緒に見て欲しいものがあるの」
「俺となんだ」
「そう、一緒にね」
 是非にという口調で誘うのだった。
「どうかしら」
「カルチェ=ラタンになんだ」
「何でも日本人がお菓子屋さん開いたらしいけれど」
「そのお菓子屋さんに行きたいんだ」
「クレープとかアイスクリームとか」
「それは普通にあるんじゃない?」
 そうしたお菓子はとだ、ジルは返した。
「どっちも」
「そう思うわよね」
 マリーはここで口調を変えた、言うその口の形も。
 わざと幾分甘く幼い口調にしてだ、そして。
 そのうえでだ、唇も少し尖らせて言った。
「けれどね」
「違うんだ」
「そうなの、これがね」
「日本のクレープやアイスはなんだ」
「違うらしいから」
「それでなんだね」
「二人でね」
 それこそと言うのだった。
「食べに行きましょう」
「それじゃあ」
「そう、一緒にね」 
 それこそと言うのだった。
「行かない?」
「日本のクレープや愛するクリームを」
「ジル最近日本に興味あるでしょ」
「不思議な国だよね」
 ジルは日本についてだ、こう話した。
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