第八章
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そのすいすいと進む曽祖父を前に見てだ、こう言った。
「本当にな」
「歩いているというんじゃな」
「ああ、凄いな」
「兵学校の時はそれこそ」
「こんなのじゃなかったか」
「毎日鍛錬だった」
その身体のというのだ。
「漕いで泳いで」
「相当だったんだな」
「そして走って」
「それで今も毎日歩いてるからか」
「これ位何ともない」
「海軍は違うってことか」
「そうじゃ、しかし」
ここでだ、豊田は。
周りの家々や山、それに草木を見てだ。目を細めさせて言ったのだった。
「変わらないな」
「この景色もか」
「兵学校の頃からな」
「だから六十年前のことだろ」
「六十年前でもな」
「変わってないのか」
「わしにはそう見える」
ここでも恭介にはこう言うのだった。
「懐かしいな」
「そんな筈ないっていうのはな」
「御前がずっと言っている通りか」
「そうだよ、それに兵学校だってな」
赤煉瓦のその建物もというのだ。
「ひい祖父ちゃんそう言ってもな」
「いやいや、それでもじゃ」
「変わってないか」
「変わってたら言う」
変わったと、というのだ。
「ちゃんとな」
「本当かね」
「海軍は嘘は言わん」
絶対にという口調での言葉だった。
「それはな」
「まあ確かにひい祖父ちゃん嘘は言わないけれどな」
曾孫の彼も知っていることだ、このことは。だから両親にも彼の様に嘘は絶対に言うなといつも言われている位だ。
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