第四章
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「よくあの中で殴られた」
「先輩にですか」
「そうだ、一日に何度も殴られた」
笑ってこう言うのだった。
「痛かったな」
「痛かった割に笑っておられますが」
「懐かしいからな」
だからとだ、豊田は事務官に話した。
「だからな」
「笑顔で、ですか」
「話してしまう」
そうだというのだ。
「俺としてはな」
「そうなんですか」
「本当に変わっていない」
江田島のその空気も吸ってだ、豊田はまた言った。
「懐かしくてここに戻って来られてな」
「よかったですか」
「本当にそう思う」
こうも言ったのだった、江田島の中で。
そしてだ、江田島での勤務を楽しんでだった。
彼は次の赴任先が決まりそこに向かう為に江田島を離れる時にだ、その赤い煉瓦の建物を見てこの時も言った。
「ずっと変わっていないといいな」
こう言って江田島を離れた、ただ。
黒と金のブレザーの会場自衛官の制服にはだ、こう思った。
「軍服は制服か」
それになったと言うのだった。そこは海軍とは違っていた。
彼は定年まで海上自衛隊で勤務した、それから再就職をしてだった。
孫も出来てだ、その再就職先でも定年になり年金生活に入った。ずっと連れ添っている妻と二人で隠居生活に入ったが。
八十近くになった時にだ、急にだった。
桜咲く季節に隠居している東京の町田のアパートに来た曾孫の一人である豊田恭介、孫息子によく似た今は中学生の彼にだ。こんなことを言われたのだった。豊田より二十センチも背が高い。
「ひい祖父ちゃん昔海軍だったんだよな」
「ああ、そうだ」
八十近くだが矍鑠たる彼はだ、彼にすぐに答えた。
「兵学校にいた」
「そこから海自に入ったんだな」
「そうだ」
その通りとだ、彼はまた曾孫に答えた。
「御前の親父か祖父さんに聞いたか」
「親父に聞いたんだ、江田島ってとこにいたってな」
「広島のな」
「そこどんなところなんだ?」
恭介は祖父の目を見て尋ねた。
「それで」
「どんなところって言われてもな」
「知らないのか?」
「その目で見ないとわからないだろ」
こう曾孫に言うのだった。
「それこそな」
「あれか、百聞はか」
「一見に然ずだろ」
「それもそうだな」
「何なら行くか」
腕を組んだ姿勢でだ、豊田は自分の前にいる曾孫に言った。
「それならな」
「江田島にか」
「そうだ、この東京からな」
「東京からだと遠いだろ」
恭介は曽祖父に何を言ってるんだという顔で返した。
「広島まで」
「そうだな、けれどな」
「ひい祖父ちゃ行けってのか」
「わしも一緒に行く」
豊田は笑って言った。
「御前の話を聞いたら久し振りに行きたくなった」
「その江田島にか」
「今どうなってるか見
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