第四章
[8]前話
「今は普通の菓子でもです」
「普段以上に美味く思える」
「そういうものですな」
「そして実際に昔は馳走でした」
先に話した通りにというのだ。
「甘いものがなかったので」
「今でこそ町にはこの水飴はj普通にありますが」
それでもとだ、良沢はまた言った。
「昔は違い」
「大層なものでした」
「そうですな」
源内の言葉にも頷くのだった。
「馳走とは時代によって変わる」
「私はそのことにも面白いと思いまして」
そしてというのだ、源内も。
「皆様に差し出しましたが」
「よくわかりました」
水飴を口にしつつだ、良沢は源内のその言葉に答えた。
「この度は感服しました」
「それは何より、ではこれからですが」
「これからとは」
「鰻を食いに行きますか」
全員でというのだ。
「まだ夕刻なので」
「鰻をですか」
「はい、これより」
「今は夏ですが」
季節からだ、良沢は眉を顰めさせて源内に返した。
「夏に鰻は」
「いやいや、万葉集でもあるではないですか」
源内は今度は歌を出した。
「鰻は美味だと」
「万葉集に」
「当時から鰻は食べていまして」
そしてというのだ。
「夏痩せにもよいとです」
「ありからですか」
「どうでしょうか」
「ふむ、それでは」
良沢は源内の言葉に頷いた、そしてだった。
玄白達にだ、こう言ったのだった。
「では次は」
「そうですな、夏に鰻は暑いですが」
「それでもですな」
「暑い時こそ熱いものを食せよともいいますし」
「それでは」
「そうしましょうぞ、しかし鰻屋は夏はさっぱり」
源内は良沢達が自分の話に乗って共に鰻屋に行くことになってだ、そしてだった。
そのうえでだ、こんなことも言った。
「客が来ぬので親父が困っております」
「だからですか」
「相談を受けておりまして、考えておりもします」
「今度は商売のお話ですか」
「左様です。さてどうしたものか」
この相談から土用丑の日が出たという。その鰻屋の親父に源内が出した知恵が土用丑の日に鰻を食べると縁起がいいと宣伝すればいいというものだったからだ。
この土用丑の日の話は有名であるが水飴の話は知られていない、しかし源内の学問を以てすればこうした考えにも至ったのであろう。多彩な才能を発揮した彼であるがこうした逸話もあるのでここに紹介させてもらった。
昔のご馳走 完
2015・12・16
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