第三章
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「待ちましょうぞ」
「ですな、楽しみにして」
「そのうえで」
「さあさあ、お待たせしました」
ここでその源内の声がした、そしてだった。
彼の家の者が持って来たのは壺だった、その壺達が一つ一つ良沢達の膳の前に置かれた。その壺が開かれてだ。
皆その中にあるものを見てだ、仰天して言った。
「これは飴か」
「うむ、飴ですな」
「そうですな、飴です」
「水飴ですぞ」
「はい、水飴です」
自らも座して馳走を食べようとしている源内が応えた。
「それがこの度の馳走です」
「水飴が馳走とは」
「これはまた一体」
「昔の馳走と聞いていましたが」
「どういうことなのか」
「ふむ、これは」
「何といいますか」
玄白と淳庵も言うのだった。
「意外といいますか」
「どういうことなのか」
「さて、源内殿のお考えがです」
「わかりかねますが」
「いや」
だがここでだ、良沢は強い声で言った。
「これは見事ですな」
「おお、良沢殿はおわかりですか」
「はい、附子ですな」
「そうです、御伽話でありますな」
「狂言にも似た様な話が」
「附子という毒だから食うなと主が言いますが」
和尚でもいい、家の者や寺の小坊主達に言うのだ。
「しかしその実はです」
「水飴でしたな」
「砂糖の場合もありますが」
「あの話は室町の頃ですが」
「甘いものは滅多になく」
「この水飴もですな」
「かなりの馳走でした」
それこそ家の主や和尚が独り占めにして時々舐めて楽しむまでのだ。
「それでなのです」
「この水飴をですか」
「皆さんに召し上がってみたいと思いまして」
「呼んで下さいましたか」
「はい」
その通りという返事だった。
「左様です」
「そうでしたか」
「さあ、どうぞ」
源内はあらためてだ、彼に言った。
「召し上がって下され」
「それでは」
「今から」
良沢達も応えてだ、そのうえで。
その壺の中の水飴をだ、箸に取ってだった。
絡めてそうして口の中に入れて舐めていく。噛んだりもしてだった。
味わう、それからこう口々に言った。
「まさに水飴」
「よい感じですな」
「普通に食すれば普通の水飴ですが」
「また違う味わいですな」
「今は」
「そうでありましょう、馳走と思えば」
例え昔の話でもとだ、笑って話した源内だった。
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