第三章
[8]前話
「そっちでもええ、とにかくや」
「実際にその舞台を観て」
「勉強するで。ええな」
「落語の稽古も勉強で」
「そうしたものを観るのも勉強やさかいな」
「わかりました、ほな」
「そうするで、まあ今も勉強してるけどな」
鰻丼を食べ続けながらの言葉だ。
「わて等は」
「といいますと」
「鰻や」
「鰻?」
「鰻からもや」
今食べているこの魚からもというのだ。
「勉強出来るで」
「落語のですか」
「ここの鰻は蒲焼を中に入れるな」
「はい、御飯の」
「これも独特やしや、それにや」
「それに?」
「大阪の鰻はな」
その鰻のことをだ、惣流はさらに話した。
「あれやろ、腹から切るやろ」
「捌く時に」
「けど江戸、東京はちゃうんや」
「あっ、そうなんでっか」
「あっちは背中から切るんや」
「それは何でまた」
「さっきお武家さんの話が出たやろ」
武家の話をだ、惣流は玄朴にまた話した。
「あっちはお武家さんやろ」
「そうですけど」
「そやからや」
「お武家さんの町やからですか」
「あっちは背中から捌くんや」
「何でまた」
「腹から切ったやどないや」
惣流は玄朴に問うた。
「お武家さんが」
「切腹でっか」
「それや、そうなるさかいな」
「向こうでは、ですねんな」
「腹から切らんでや」
「背中からですか」
「そうするんや」
こう弟子に話した。
「向こうはな」
「成程、わかりました」
「そうしたこtごもわかるとな」
「ちゃいますか」
「落語のネタになるしな」
「落語は何でもネタになる」
「何からでも勉強出来る」
それこそというのだ。
「歌舞伎も食いものも」
「どれでもでっか」
「そや、そやからあんさんもな」
「もっともっとですか」
「色々なことから勉強するんや、ええな」
「わかりました、ほな」
玄朴も頷いた、そしてだった。
彼はその腹から切った御飯の中にある鰻を楽しんだ。落語のことを思いながら。
政岡 完
2016・1・19
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