第一章
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政岡
政岡という女がいる、歌舞伎の伽羅先代萩に出て来る女でまだ幼子の主君を守っている忠義の鑑と言っていい女だ。
しかしその政岡についてだ、桂玄朴は師匠の桂惣流にいぶかしむ声で尋ねた。
「師匠、先代萩の政岡ですけど」
「あの人がどないしたんや」
痩せた年老いた顔でだ、惣流は玄朴に問い返した。丁度稽古の後の一服の時だ。
「一体」
「はい、あの人怖い人でしょうか」
玄朴はいぶかしむ顔で師匠に尋ねた。
「この前谷町の人に言われたことですけど」
「そのことやな」
惣流は弟子の言葉を聞いてだ、まずは。
着物の袖の中で腕を組んでだ、こう弟子に返した。
「長い話になるで」
「そうですか」
「そやからや」
長い話になるからとだ、前置きして言うのだった。
「ちょっと家に帰るまでにや」
「寄ってですか」
「鰻でも食いながら話そか」
「鰻ですか」
「あんたも好きやろ」
ここで笑って言った惣流だった。
「それにあたしもや」
「そういえば師匠鰻お好きですね」
「あんな美味い魚はあらへん」
だからこそというのだ。
「それでや」
「鰻ですか」
「それ食いながら話そか」
「でしたら」
「今から行くで」
「はい」
玄朴は師匠の言葉に頷いた、そしてだった。
二人は稽古場を出てだ、そのうえで難波の町に出た。賑やかな人通り、最近はハイカラな雰囲気が強いその難波の中をだ。
男二人連れ立って歩いてだ、惣流はある店の前に来て弟子に言った。
「ここにしよか」
「いづも屋ですか」
「そや」
まさにこの店にだというのだ。
「今から入ってな」
「そしてですね」
「鰻食いながらや」
「話をしますか」
「そうするで」
「わかりました」
玄朴は惣流の言葉に頷いてだ、師匠についてだった。
店の中に入った、そして。
二人で飯の中に隠れている鰻を出してそれと飯を一緒に食いながらだった。そうしつつその話を始めたのだった。
惣流はその鰻丼を食いつつだ、弟子に言った。
「政岡やな」
「はい、あの人です」
「確かにあんさんの言う通りな」
「怖い人でっか」
「そうかも知れんわ」
箸を上手に使いながら弟子に話す。
「あの人は」
「主守る為ですけど」
「自分の息子が目の前でざくざくと何度も刺されて殺されてもな」
「その場では眉一つ動かしませんな」
「じっとな」
「そんなの普通出来ますやろか」
「いや、でけへん」
惣流は一言で答えた。
「わてもそんなことになったらな」
「その場で、ですな」
「あの八汐に踊りかかってや」
「子供守って八汐殺しますやろ」
「そうするわ」
惣流にしてもというのだ。
「絶対にや」
「やっぱりそうしま
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