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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第九十話 飛翔
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能性としてはありえない話ではない。しかし、もう一つだな」

周囲では提督たちに煽られたのだろう。フェザーン討つべしの声がちらほら聞こえる。
「裏が有るだろうな、何枚裏が有るかはわからんが」
何処か楽しそうな口調でリューネブルク中将は話す。

「楽しそうですね、中将」
「ああ、楽しいな。昔の彼が戻ってきたからな」
「?」

昔の彼? どういうことだろう。私の疑問を感じたのだろう。中将は含み笑いをしながら答えてくれた。
「最近はごく普通の有能な副司令長官だったな。しかし、要塞陥落後は違う」

「?」
「ヴァンフリートを思い出すな」
「ヴァンフリート?」

思わず出た私の言葉に中将は頷いた。何処か懐かしげな表情だ。ヴァンフリート、私が捕虜になった場所。あそこから今の私が始まった……。

「ああ、あの頃の彼は、まだ大佐だったがミュッケンベルガー元帥でさえ眼中に無かったな。勝つためなら元帥であろうと平然と利用する、無視もする。そんな底の知れないところがあった」

「少佐、副司令長官は動くぞ。内乱の危機と外からの侵略の危機。帝国はかつてない危険な状態にある。どう動くかは分らんが、彼が動けば全てが一変する。それだけは間違いない、楽しくなるな」
「……」

中将の言う事が私にも分る。第六次イゼルローン要塞攻防戦、皇帝不予、どちらも大将が動いたとき、全てが劇的に変わった……。大将は今動き始めようとしている。どのような形になるのかは分らないが、全てが一変するだろう……。


■ 帝国暦487年5月 3日  オーディン ミュッケンベルガー邸 ユスティーナ・フォン・ミュッケンベルガー


ヴァレンシュタイン提督がいらっしゃった。イゼルローン要塞が陥落し、遠征軍、駐留艦隊が壊滅的な敗北を喫した事で忙しいはずなのに、こうして養父の所に来てくれる。

提督は何時もと違い、とても厳しい表情をしていた。私には笑顔を見せてくれたけど、養父に会うと直ぐに表情を引き締め、二人で書斎に入っていった。普段と違いなかなか書斎から出てこない。

私は心配になって、書斎に様子を見るためお茶を持っていった。ドアをノックしようとすると中から声が聞こえる。

「本当にそんな事が出来ると思うのか」
養父の声だ。声には半信半疑の響きがある。はしたないとは思ったが、つい立ち聞きしてしまった。

「出来なければ、帝国は滅びます」
提督の声だ。帝国が滅ぶ? 提督は銀河帝国が滅ぶと言っている!
「しかし、難しいぞ。場合によっては帝国は外と内に敵を持つ事になる」
養父の声には深刻な響きがある。こんな声は珍しい。

「今迄もそれは変わりません」
「しかし、今迄はイゼルローンが有った」

「ですから、せめて主導権はこちらで持ちたいと思いま
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