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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第八十九話 イゼルローン要塞陥落後
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か?」
「そうじゃ」
どうなるんだ……。侯は何を心配している?
「これまでは、ローエングラム伯のため大人しくしておったとは思わんか? それを失った彼女がどうなるか、想像がつかんか?」
「!」
リヒテンラーデ侯は意地の悪そうな顔をして俺を見ている。
「最初に狙われるのは卿じゃな。伯をわずか一個艦隊で外征に出したのじゃからの」
「……」
ようやく分った。ヤン・ウェンリーが何を狙ったのか。狙いは俺か。ローエングラム伯を殺す事で俺を殺す事を考えたのか。アンネローゼが皇帝に何か言っても皇帝が受け入れることは無いだろう。しかしそれを利用しようとする貴族は必ず出る。
ベーネミュンデ侯爵夫人を見れば分る。何処かの馬鹿貴族がアンネローゼの名を使って俺を殺そうとする。あるいはアンネローゼに密かに協力をする。いくらでもやりようは有るだろう。
ヤン・ウェンリー、お前はそこまでやるのか。俺が死ねば、内乱が起き易い。帝国が混乱すれば外征できなくなる。結果として帝国は弱体化し同盟は回復する。そして回復した後はイゼルローン回廊から同盟軍が帝国領に侵攻する。それが目的か。そのために三百万の兵を殺したのか! 俺はそれに気付かずにラインハルトを送り出した……。
全て俺を殺すためか。俺の体が、心が震えているのが分る。怒り? 恐怖? どちらでもいい、この震えを消す方法は一つしかない。ヤン・ウェンリー、お前に報復する事だ。お前が俺を殺すために三百万の人間を殺すのなら俺がお前を殺すために三百万の人間を殺してもお前は文句を言えまい。お前が一番嫌がることをやってやる。
リヒテンラーデ侯、エーレンベルク元帥、シュタインホフ元帥が責任云々を言い合っている間、俺は一人、ヤン・ウェンリーに対する報復を誓っていた……。
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