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青砥縞花紅彩画
10部分:新清水の場その十
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その通り、これはあちらから譲り受けたもの、どうして返す必要があろう」
南郷「それでは道義にもとりますが」
忠信「わしの道義では誤りではない」
南郷「世の道義とは違うと思われますが」
忠信「はて、ではわしが世の道義に逆ろうておるとでも言うのかな」
南郷「残念ながらそうなりまする」
忠信「(にやりと笑って)確かにそうかも知れぬな。だがわしのいる世界ではこれは道理」
南郷「といいますると」
忠信「日本駄右衛門という者を知っておろうな」
南郷「名前だけは。何でも千人の手下を抱える盗人の大親分だとか。盗みはすれど非道はせずの男だそうですな」
忠信「左様、その手下の一人に忠信利平という者がいるのは知っていよう」
南郷「日本駄右衛門の手下の中でもとりわけ腕が立つとか。主に寺や神社に押し込むとか」
忠信「その通り。そしてここは寺じゃな」
南郷「はい」
忠信「そしてその忠信利平の姿形はご承知かな」
南郷「残念ながら。剣の腕前だけは伝え聞いておりまするが」
忠信「今何処にいるか知りたいか」
南郷「出来ることでしたら。こちらも興味がありますので」
忠信「そなたの目の前じゃ」
南郷「(あっと驚いて)何と」
忠信「左様、忠信利平とはわしのことじゃ。(笑いながら言葉を続ける)」
忠信「近頃まとまった仕事もなかったがこうして上手く手に入ったのじゃ。おいそれと渡すわけにはいかぬぞ」
南郷「(がらりと態度を変え)成程、そういうことかい」
忠信「(その様子に何かを見て)ほう、お主も只の侍ではあるまい」
南郷「わかったようだな。南郷力丸を知っているか」
忠信「海賊のか。相当派手に暴れているそうだな」
南郷「それがこの俺よ。相手があの日本駄右衛門の手下だからといって引き下がると思うてか」
忠信「面白い、やるつもりか(そう言いながら刀を抜く)」
南郷「やらいでか(ここで後ろにあった開帳札を引き抜いて構える)」
忠信「行くぞ」
南郷「おう」
 二人は互いに睨み合う。ここで月が隠れて舞台は闇の中となる。
忠信「むっ」
南郷「月が隠れたか」
 中でだんまり模様の立ち回り。月が出て来た時には忠信は左の出入り口の側にいる。南郷は右手の出入り口の側。
南郷「どうやらお流れじゃな」
忠信「南郷よ、また会おうぞ」
南郷「その時こそその百両貰い受けてやる」
忠信「できるのならな」
 忠信はそのまま左手へ消える。南郷はそれを黙ってじっと見ている。ここで拍子木の音、幕がゆっくりと降りてこの場は閉幕となる。

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