9話 一夏戦
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を背負わされた鬼一が勝つために出した結論の1つが『観客』を意図して味方につけることだ。どれだけ環境が変わろうとも必ず観客は存在する。その観客を利用することで自身のパフォーマンスを向上させる、という技術を身に付けたのだ。数多くの逆転劇を生み出してきた鬼一の原動力でもある。
常にトップとして独走状態のまま戦った千冬。
常に劣勢からスタートし、何らかのハンデや未熟さを抱えたまま戦った鬼一。
成長の余地、改善の余地が多く残されているかなど考える必要もない。そして鬼一はそれから目を逸らさなかった。
結果として月夜 鬼一という存在は14歳という若さで百戦錬磨の手練れのような狡猾さを手に入れることに成功した。
勝負する世界が変わっても勝負という土俵である以上、鬼一の強さは様々な形で発揮される。ISも例外ではない。
体力が一時的に回復した鬼一に対し、一夏は自分の身体が重くなるのを実感する。呼吸が浅くなり、汗が吹き出る。この状況がどれだけ自分に悪影響を与えているのか一夏は理解していない、いや、理解できない。
どれだけ才能があろうが、体力と経験値、そして自分にとって異常な雰囲気を跳ね返すだけの精神的な強さは決してすぐに手に入れることは出来ない。相手が1人だけなら一夏はどうにでもなっただろう。だがここにきて自身の意識の一部を、観客から生み出される何かに削らなくてはならない。
精神的な意味合いを含めても鬼一からすれば自分の有利ではないと分析する。
結局、どれだけ追い詰めても一撃をもらえばそこで決着の可能性がある以上、鬼一は有利を獲得することは出来ない。
単純に考えれば、未だ拡張領域に保管しているミサイルポッドや羅刹を取り出せば表面的な有利は獲得できる。
中距離、遠距離で使用できる武器は一夏の白式と致命的なまでに相性が悪い。鬼一の技術的な問題を考えても使用すれば鬼一は安全に攻撃をすることができるのだ。命中率は低いがそれであっさりと勝利するかもしれない。
だが、鬼一は選択しない。いや、選択できないのだ。
確かに安全に攻撃できるというのは極めて魅力的だ。しかし、鬼一からすればこれだけお互いの対応と反応が極まっている状態で安全策に走れば、一瞬で敗北に転落することになるだろう。
故に、鬼一の戦術は変わらない。僅かとは言え体力が回復したアドバンテージを活かして余力のある今のうちに速攻で決める。それしかない。自分と鬼神を信じて、身を投げ出すしかない。左手に持った折れた夜叉を逆手に構える。
呼吸が苦しそうな一夏も正眼に構える。どうやら同じ結論に到達したようだ。
歓声の中、2人の視線がぶつかる。
そのあまりの緊張感に観客席が静まり返る。全員が感づいた。
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