第六話 譲れないもの
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ければ、今回の艦隊の編入はとりやめる。俺はそう明言した。これには加賀も日向の奴も驚いた。一番驚いていたのは鳳翔だったのかもしれない。そりゃそうだろう。精鋭中の精鋭空母に新人が挑むわけだからな。以前の奴なら震え上がって気絶しただろうが、今の奴は違う。だからこの提案を受けるはずだ。きっとな。俺はふと満月の照らし出す青い海を一点を見た。何か一筋の光のようなものが闇を切り裂いて飛んでいるような気がしたのだ。こんな夜間になんだ?まさかとは思うが――。俺は双眼鏡を取り出し、そっと目に当ててみた。
・・・・なるほどな。奴の思いと覚悟がどこまでのものなのか、それを確かめる時が来たようだ。
数日後――。
演習当日だというのに埠頭には大勢の艦娘が詰めかけて、まるでお祭り騒ぎのようになった。目的はもちろん鳳翔vs紀伊の特別演習だった。それぞれ一人ずつ補佐(もっとも試合中は絶対に手出しをしないこととなっている。)が付くことになっていた。鳳翔には加賀が。そして紀伊には瑞鶴が付いた。審判役に翔鶴と、そして赤城が務めることとなり、まさに正規空母艦娘のオールスターが勢ぞろいした感があった。
「紀伊、大丈夫?」
飛行甲板の調整をしていた紀伊は顔を上げてうなずいた。
「はい。大丈夫、です。」
「あまり大丈夫とは言えない顔だけれど・・・・でも、私はあなたを見直したわ。」
「??」
「だって・・・最初のころだったら艦載機を発艦するだけでも大変だったのよ。それが今じゃここまで来れた。全部あなたが努力したからよ。」
「いいえ、瑞鶴さん、そして翔鶴さん、皆さんのおかげです。私は何も誇れるようなことはしていません。」
「随分練習を積んできたみたいだけれどね。」
瑞鶴は紀伊の手を見た。よく見ると傷だらけで包帯がしてある。その時、海上に警報が鳴り響いた。試合開始の合図だ。
「時間よ。悔いの残らないように、頑張ってきて。信じてるから。」
瑞鶴がひたっと紀伊を見つめている。折から吹いてきた穏やかな海上風にツインテールが揺れる。だが、それは数日前の険しい顔ではない。仲間を信じ励ましの想いと共に送り出そうという親友の暖かな眼だった。
「はい!」
紀伊はうなずき、水面をけって海上に進み出た。彼方から鳳翔が滑ってきた。二人は数メートルを隔てたところで向かい合った。鳳翔の表情は読み取れない。この演習について肯定的なのか、否定的なのか、それは彼女だけが知りうることだろう。だが、紀伊はそんなことを気にしていなかった。鳳翔がどんな心境だったとしても自分は全力を尽くすだけだと決めていたからだ。
迷いはなかった。
二人が向かい合うのと同時に埠頭の方から二人の艦娘が滑ってきた。赤城と翔鶴だ。
「では、これより艦載機による演習を行います。主審は私、赤城が務めさせていただきます。」
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