第六話 譲れないもの
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六艦戦は3機一体となって上下左右から烈風隊を挟撃してこれを撃破していった。
「くっ・・・!いったん退避!!」
紀伊が叫び、烈風隊は旋回しようとしたが、旋回性能では九六艦戦が優っていた。間合いが遠ければ、持ち前の速力を生かして撤退できるが、混戦のため九六艦戦に捕捉されてしまっている。このため先手を取られて残る烈風隊も次々と撃墜判定を下されてしまった。
「・・・・・・・・。」
紀伊は顔色を、そして言葉を失っていた。
その日の夜――。
「どうしたのじゃ?さっきから全然箸が進んでおらんぞ。」
利根が話しかけた。食卓の上には利根が腕を振るった牛肉じゃがが大ぶりの器に入って湯気を立てている。多少玄米や雑穀が混じっているがホカホカと炊き立てのご飯。筑摩自慢の豚汁。鈴谷が昔瑞鳳に習って作ったという卵焼き。それに漬け物。後で熊野がアレンジしたデザートが出ることとなっている。
「せっかく晴れの出撃が決まっての祝いじゃというのに、浮かぬ顔じゃの。」
「冷めちゃうよ。」
「わたくしのお手製のデザートもありますのに。」
「ごめんなさい・・・・。」
紀伊はそう言ったが俯いたままだ。目の前の料理は手が付けられず、徐々に冷めてきている。筑摩はじっとそれを見つめていたが、やがて静かに箸をおいて身を少し乗り出した。
「紀伊さん、何かあったのですね。・・・・・もし、よろしければ話してもらえませんか?」
紀伊はぎゅっとスカートの上で膝をつかんでいる。その手は小刻みに震えていた。
「のう紀伊。吾輩たちはこれまでずっと一つ屋根の下で暮らしてきた。最初は鈴谷の奴も熊野の奴も不審顔だったが、今はこうして一緒に飯を食っている。」
「艦種は確かに違うかもしれないけれど、ウチらはどの寮よりも仲良しだと思うよ。それって、何かあれば何でも話し合う仲だと思うな。」
「紀伊さん。」
紀伊は大きく息を吸って、顔を両手で覆い、堰を切ったように話し出した。
「私、私、私・・・・!出撃艦隊から外されて・・・・!!」
4人は唖然とし、次に顔を見合わせあった。
演習で完膚なきまでに敗北した紀伊に鳳翔と翔鶴は色々と話しかけたが、彼女は終始うなだれているだけで何も言えなかった。悪いことにそれを目撃していた日向と加賀が一斉に紀伊の出撃取り下げを提督に打診してきた。怒った鳳翔が無断で観戦した二人にそのことを責め、取り下げるように命じたが、二人は首を縦に振らなかった。このため提督を交えた緊急会議が行われ、現在も話し合いが続けられているという。当事者の紀伊はその話し合いから外されていた。
「ごめんなさい・・・・。」
紀伊は顔を上げた。涙の後が頬に光っていた。
「皆さんこんなに大変な思いをして色々と用意してくださったのに・・・・私は・・・・。」
「ひどい!!」
鈴谷が声を上げた。
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