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第二十二話その2 皇帝陛下の憂鬱な日々なのです。
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がノックされる音がしたからである。その音はある取り決めに従って叩かれていたが、奇妙な調子で響いた。
「入れ」
ベーネミュンデ侯爵夫人は声をかけた。キィと遠慮がちにドアが鳴り、おどおどとした宮廷医師風の服装をした男が入ってきた。
「して、首尾はどうじゃった?」
男は青い顔をしてしきりにハンカチで汗をぬぐっている。
「どうじゃったと聞いておる!!グレーザー!!」
「は、ハッ!!・・・残念ながら・・・・失敗に終わりました」
グレーザーがその時俯いていたのはある意味で幸運だった。まともに向かい合っていれば、彼女の放つ眼光と形相によってグレーザーは瞬死してしまっていたかもしれない。
それほどその時のベーネミュンデ侯爵夫人の顔はメデューサのごとく変わり果てていた。
「何じゃと・・・何じゃと!?」
「は、ハッ!!クルムバッハは死亡しました。むろん事後の心配はございません。こちらの糸を切るため、表向きは要塞内部での事故ということにしてあり――」
「そんなことは聞いておらんわ!!!」
クッションが投げつけられ、まともにグレーザーの顔に当たる。
「おのれあの弟め・・・・」
アンネローゼを苦しませるため、ベーネミュンデ侯爵夫人はヘルダー大佐を使嗾し、次に決闘事件の際には刺客を放ち、そして今度はクルムバッハ少佐を使役した。それがことごとく失敗に終わってしまったのだ。
「悪魔めが!!あやつらには悪魔が味方しておるというのかッ!?」
グレーザー医師はしきりに顔を拭いているばかりであった。
「グレーザー!!!すぐに次の手をうつのじゃ!!誰でも構わん!!今度こそあの弟の、小僧の息の根を止め、その首をアンネローゼに送り付けてやるのじゃ!!!・・・・くくく、さぞ見ものであろうの。愛すべき弟の首を見た時のあの女の顔が!!!」
第三者がみたら戦慄したかもしれないほど、ベーネミュンデ侯爵夫人の目の色は尋常ではなかった。その口元は残酷な笑みにゆがみ、目の色はその時の光景を夢想しているのだろうか、陶然とした様子にさえ見えている。
「か、かしこまりました。すぐに手配いたします・・・・・」
グレーザーはそう言い、這うようにして部屋を出るのがやっとであった。
部屋を出て廊下に立ったグレーザーはほうっと息を吐き出した。迷信じみたことを信じたくはないが、あの部屋の空気は異常だ。閉め切っているせいなのかもしれないが、侯爵夫人の憎悪の念が渦を巻き、入る者を圧迫する。息苦しくさせる。その憎悪の念が今にも魑魅魍魎となって具現化するのではないかとさえグレーザーは思ってしまった。
「怖いですわね、女というものは」
扉を閉めて振り返ると、ヘアーキャップから、肩までかかるヴェーブさせた茶色
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