第43話
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し、何かと助けてくれたものだ。
人を見る目には自信のある董卓でさえ彼の企みがわからなかった。
ましてや袁紹は袁家の当主にして、今や大陸最大の強国“陽”の君主だ。
本心を隠す術を心得ていても不思議では無い。
だからこそあの言葉を投げ掛けた。臆する事無く了承したらそれで良し。
言い淀んだり、目を逸らすような事があれば……。
以前の董卓なら、このような大胆発言をしなかっただろう。
彼女を突き動かしたのは、直ぐ後ろに控えている二人の存在だ。
あの洛陽の地では、流れに身を委ね事で大事になった。此処でもそれをくり返すのか?
嫌だ。
もしも袁紹が張譲のように私欲を隠し、綺麗ごとで大陸を荒らすようなら……。
自分はまだ良い、それに巻き込む二人が哀れでならない。
この人に確信を持ちたい。どこまでも付いて行けると、後悔する事はないと。
例え、不敬罪で死罪になろうとも――……。
「その短刀が我が答えである」
「自害せよ……と?」
「違う、それは暗愚と化した我の命を絶つための刃だ」
「麗覇様なにを……!?」
慌てて駆け寄ろうとする桂花を手で制する。これだけは譲れない。
「董卓の懸念は、我にも思う所がある」
袁紹の懸念、それは今以上の力を手にして自分が変わるのではないかと言う物。
ありえない話だ、彼を知る者ならば鼻で笑うだろう。袁紹にもその気はさらさら無い。
しかし、手放しで自分を信じるには、袁紹は人の闇を見すぎた。
名族袁家の次期当主として、幼い頃から各地の名士と顔を合わせる機会が多い彼は、出世、金、肉欲で人格を変えていく人々を見続けてきた。
先日まで好青年だった者が、数年後には醜い肥満体で女を侍らしている。
そんな光景などざらだった。だからこそ――
「だからこそ、私にこの短刀を授ける……と?」
必死に言葉を紡ぐ董卓に向かって、袁紹が頷く。
彼女はあの洛陽で、絶望的な戦力差にも関わらず民を奮い立たせた徳の人だ。
董卓が短刀を抜く事があれば、その時こそ袁紹が暗愚になった証。
胸に刺さった短刀を見ながら暗愚として醜く朽ち果て。
理想を抱いていた頃の自分は、納得して死んでいけるだろう。
「皆に告げる! 董卓がこの短刀で我を害した場合。
それがいかなる時、状況であっても罪に咎める事は許さん!」
我慢出来ず、桂花と風の二人が足早に近づいてくる。
斗詩や猪々子達は静観して事の成り行きを見守っているが、顔は険しい。
「こ れ は 王 命 で あ る ! !」
大地を震わせるような声量が響き渡り、袁紹に伸びかけていた手が止まる。
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