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11年目の春
あの日の面影
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どうもこうも、そのままの意味よ。」
 入学式が終わって、人気のない非常階段に呼び出されたコナンは、その灰原の言葉に愕然とした。
 「あなたも分かってると思うけど、あなたの体には薬の耐性ができてしまっていて、ここ五年ほどは、もう解毒薬を飲んでも元の体には戻れないでいる。」
 「だから、また新しく作ればいいだろ!?」
 コナンはカッとなって灰原に食ってかかった。それでも灰原は冷静に、頭に血が上ったコナンに冷たく鋭い目を向けた。
 「いい? よく聞きなさい。あなたの体を幼児化したアポトキシン4869の解毒剤を飲んだところで、あなたの体は27歳の工藤新一になれるわけじゃないのよ。」
 頭を固い何かで殴られたような衝撃にコナンは、愕然とした。追い打ちをかけるように、なおもきつい口調で灰原は続ける。
 「もう、あなたを本当の姿に戻すすべは、どこにも存在しないわ。」
 血の気の引いたコナンの顔に灰原は笑った。冷たく悲しげなその笑顔に守られている彼女はボロボロの心を必死に取り繕っていた。
 「心配しないで。今のあなたは17歳。蘭さんは27歳。もう子供じゃないんだから。きっと歳の差なんて――――。」

 「コナンくん?」
 心配そうにコナンの頬に手を伸ばし顔を覗きこむ蘭の言葉にコナンは我に返った。蘭のその眼差しは工藤新一ではなく江戸川コナンに向けられている。それは母親のそれととても似ていて、コナンは自分の頬に伸びる蘭の手を握ろうして、その手は力なく空をつかんだ。
 そんなコナンに蘭は申し訳なさそうに一歩離れるとゆっくりと口を開く。
 「コナンくんの気持ちはすごく嬉しいわ。でもね、私は。」
 視線を上げた蘭は言葉に詰まった。目の前にいるのは、あの日の新一。心をいっぱいにして待ち焦がれていた初恋の人。
 「私は、新一を待ってるの……。」
 蘭はそう言って悲しげに笑った。自分が蘭にそんな顔をさせているのかと思うといたたまれなかった。
 「それに、そんなのコナンくんに失礼だわ。」
 月明かりに照らされる十八歳になったコナン。そんなコナンに蘭はあの日の新一の面影を重ねずにはいられなかった。ずっと張り詰めていた糸が切れるように蘭の目からは大粒の涙がこぼれた。コナンの腕の中で泣き崩れる蘭は懸命に声を押し殺していた。
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