血のバレンタイン 〜小さいおじさんシリーズ7
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草木も眠る深夜。
『彼ら』も眠っているはずだ。…普段通り、なら。
それでもなお、俺は錆びた階段を音もたてずに登る。
これは勘、というか予感のようなものだが、
俺は今、何らかの謀のさなかにある。
俺に彼女が出来たことは『彼ら』にはバレてはいない…とは思う。いやしかし。それは俺の希望的観測か。
「もう、こんな季節ですな」
「ああ、もうこんな季節か」
「高級チョコレートが飛び交うイベントがあるそうだな…14日に」
ちらちらとこちらを見ながら、3人の小さいおじさんが言葉を交わしていた。彼らが集い話し始めると必ずひと悶着あるのに、ここ数日不気味に大人しいのも気になっている。
電気は…猫ちぐらが怪しく発光している。まだ起きているのか、寝落ちてしまったのか。ドアを開ける前に、俺は鞄の上から『それ』を握りしめる。…大丈夫、俺はここの家主。分は完全に俺にある。
彼女から貰ったゴディバは絶対、一片たりとも渡さない。
音もなく鍵を回し、そっとドアを開ける。猫ちぐらの前に座る小さな人影。…っち、やはり起きていたか。
「……んん??」
あれ、おかしいな。
「……二人?」
呟きかけて、慌てて口を噤む。いかんいかん、俺は彼らにとっては居ないことになっているのだ。彼らは気にすることなく、無言で酒を呑み、干し肉を噛み続ける。俺の虎の子の八海山だが今はいい。『これ』には代えられない。素知らぬそぶりで靴を脱ぐと、さりげなく鞄を壁のフックに掛ける。
「……なるほど、奴の言う通りじゃな」
「応。業腹ではあるがな」
端正が深くため息をつく。酒を飲んではいるが、大して酔っていないようだ。…どうやら居ないのは白頭巾らしい。おかしいな、あいつがこのタイミングで出てこない、とは。
「…『彼』が鞄を、ぞんざいに扱わない。あれは…入っているのう」
心底、ぎくりとした。…しまった、俺はいま決定的な地雷を踏まなかったか?
「しかし取れんのう、あんな高いところにあっては」
豪勢が心底悔しそうに地団太を踏む。…そ、そうだ。鞄は高い場所に掛けた。登ろうと狂暴な武将を呼ぼうとどうにもならないはずだ!大丈夫、大丈夫…気のせいに違いない。大丈夫……。
しかし……暑い。なんだこれ、今2月だぞ!?
「どうするのだ?こんな時、天才軍師としてはどのような策を弄するのだ?」
豪勢がおどけたようにように猫ちぐらの影に声を掛ける。
「東南の風を、吹かせて差し上げましょう……」
珍しくほどいた髪を熱風になびかせ、暗がりから白頭巾が現れた。ぞくり、と背中を悪寒が走った。こいつは何故、俺の視界から外れていた?そして何故今、満面の笑みで俺の前に現れた…?
俺は今、ひょっとして既に奴らの罠の真っただ中にいないか!?
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