巻ノ四十三 幸村の義その八
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「これも召し上がって下され」
「おお、刺身ですか」
「大坂のすぐ前の海で獲れた魚をですな」
「刺身にした」
「それをですか」
「鯛です」
この魚だというのだ。
「とびきり大きな鯛が獲れたとのことで」
「それで、ですか」
「その鯛を刺身にして」
「そのうえで今ですか」
「我等に出してくれますか」
「そうです、さあ召し上がられよ」
その鯛の刺身をというのだ。
「これは美味いですぞ」
「確かに、身が違いますな」
「光ってさえいます」
「これは美味いですな」
「酒にも合いまする」
「大坂は魚が実によいです」
前が海に面しているだけにだ、それこそすぐに漁れる。
「では醤もありますので」
「はい、醤をかけ」
「そしてですな」
「この鯛の刺身を共に楽しみましょう」
「今宵は」
「酒もですな」
幸村は今も飲んでいる、そのうえでの言葉だ。
「これも大坂の酒ですな」
「左様です」
「大坂の酒は実に美味い」
「真田殿は酒がお好きですな」
「はい、特に焼酎が」
「ですな、では大坂の酒もです」
それもと言う兼続だった。
「お楽しみ下さい」
「今宵も」
「もう少し大坂にいますが」
「その間は」
「こうしたものを楽しみましょう」
刺身の様な新鮮な海の幸をというのだ、瀬戸内の。
「こうして」
「ううむ、どうしてもです」
幸村はその刺身を見つつ唸って言った。
「上田にいますと」
「生の魚はですな」
「川魚はいますが」
「生で食することはですな」
「真田家ではしませぬ」
決してという言葉だった。
「拙者も家臣達もです」
「川魚は虫がおります」
「だからです」
十勇士達も兼続に言う。
「海魚よりも多く」
「ですから下手に生で食べると後が怖いので」
「必ずじっくりと火を通して食べています」
「煮るなり焼くなり」
「それがよいですな」
川魚をそうして食べることについてだ、兼続もよしと答えた。
「川魚については」
「やはりそうですな」
「確かに魚は生で食べても美味いです」
その刺身等でだ。
「しかし少し時を置くと傷みますし」
「虫もいますので」
「川魚を生で食することは」
「迂闊にせぬのがよいです」
「そうですな」
「真田殿は三国志演義を読まれていますな」
ここでだ、兼続はこの書を話に出してきた。
「左様ですな」
「あの書ですか」
「はい、読まれていますな」
「大層面白い書ですな」
幸村は微笑み兼続に答えた、右手には杯がこれまで通りある。
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