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逆さの砂時計
Side Story
少女怪盗と仮面の神父 16
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引いた薄い唇が、何故かとても楽しそうに歪む。
 「な……なん、デス、か!?」
 「んー? んふふー。ちょーっと暇潰しに来たんだけどねー? あなた、見掛けは物凄く可愛いわね。頬とか唇とか、柔らかくてとても美味しそう。食べちゃいたいくらい」
 いろんな意味で緊張するミートリッテの視界に、女性の愉悦溢れる艶めかしい舌舐めずりが飛び込む。各所に設置された松明の明かりを受けて唇がてらりと光った刹那、体中にぞわわわっと壮絶な寒気が駆け抜けた。
 「わ、わわわっ、私にそういった趣味はありませんごめんなさい離してください遠慮しますぅう…… ッ!?」
 咄嗟に体を縮めて後ろへ逃れようとするが、押さえられた肩がびくともしない。細い腕からは想像もしなかった力の強さに驚いて、退こうとした足が止まる。
 「やぁだ、なにこの可愛い反応! もしかして処女なの? 年頃に見えるけど……へぇー。純情少女なんだ?」
 「マーシャルさん! 此処には自警団の方々も居るんですよ? 配慮に欠けた発言は慎んでください!」
 「ふぅん? アーレストさま、こういう子が好みだったのね。うんうん。分かるわぁー。純粋で純白なものを見ちゃったら、自分色に染めたくなるわよね! ……でも、駄目だわ。」
 マーシャルの手がスッと離れた。
 今のはなんだったのかと見上げた顔は……無表情だ。楽しそうな笑みが完全に消え去っている。
 「全っ然、駄目。この子は何も見てない。何も気付いてない。使えるのは外見だけね。それも未熟だから、てんでお話にならない。」
 「……は、ぁ?」
 冷えた声色での唐突な駄目出しに、言葉を失う。
 何も見てない? 気付いてない? いきなり現れていきなり迫って来て、いったい何の話をしているのか。
 気分を害しかけた所で、マーシャルが再びにこっと笑う。
 「ねぇ、あなた。これは人生経験豊富なお姉さんからの、とても親切な忠告よ。全然似合わないから、やめておきなさい。身の丈に合わない想いなんて、自分を満足させる為の幻想でしかないわ。どう転んでも、最終的には大切な人達を傷付けるだけ。強引に先へ進もうとしても、誰も幸せになれないの」
 「……え?」
 「マーシャルさん、それ以上は……!」
 「解ってるわ、アーレストさま。本当はもっともっと楽しみたいけど……怒られたくないから、今日は大人しく帰る。また構ってね? あなたも」
 目を丸くして固まるミートリッテの頬に、マーシャルの唇が柔らかく押し当てられた。白い肌に、温かい感触と赤い口紅がうっすら残る。
 「じゃあね! バーナベアレ・フィドゥ・ミア・ラ・ヴェッラティーナ!」
 「! 貴女という人は……っ!!」
 満面の笑みで二人に手を振り、カカカッと硬質で軽やかな足音を響かせて砂浜へ走り出す女性。茫然と事態を見守っていた自警団員
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