第42話
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いつかは来るとわかっていた。覚悟もしていた。だが早すぎるのではないか。
漢の権威は地に落ちているとは言え、未だ存在している。
このタイミングで建国すれば、大陸で孤立して他から攻められるのではないか……。
「帝と呼ばれる騎手は姿を消し、漢と呼ばれる手綱からは力が無くなった。
操り手が居ない駄馬達は浮き足立ち、民草を踏みつけ不幸を蔓延させている。
我等は新たな騎手として駄馬を纏め上げ、民草の“満たされる世”を作りだすのだ!!」
『オオオオオォォォーーーッッ!!』
これは産声だ。いずれこの大陸を統べる国の産声。
袁紹が満足そうに続きを口にしようとした、その時だった。
「お兄さん、一つ確認したい事があるのです〜」
風だ。今まで静観していた彼女が突然話しかけてきた。
それもこれから更に盛り上げる場面でだ。袁紹は少しふてくされる。
「お兄さんは名族として袁家であることを誇っている。今もそれは変わりませんね」
「無論だ」
「その袁家を名族たらしめていた漢王朝に、反旗を翻すその心は?」
謁見の間から音が消えた。風の疑問には何人か思うところがある。
だが、何もそれを新たな門出で言うことはあるまい。その証拠に皆が白けている。
中には風に白い目を向けるものもいたが、彼女は意に返さず袁紹を真っ直ぐ見据えていた。
風にとって、この質問は答えられて当たり前。
もしこの時、袁紹が答えに詰まるような事があれば――……所詮その程度の覚悟だったのかと、見限っていたかもしれない。
「風の言うとおり、我が袁家は漢の下にあって名族として存続してきた」
袁紹は目を閉じる。思い返すのは袁家の英霊達。
「その漢王朝に報い、支えることこそが袁家の役目。
かつてのご先祖様達が担ってきた仕事である」
静かに目を開ける。開けた視界には不安げな家臣達の顔が映った。
無理も無い。袁紹の顔からいつもの笑みが消え、弱弱しいともとれる声色が響いたのだから。
「だがこうも思うのだ。民あっての王朝だと」
ゆっくり、声色に力を入れていく。
「民が無ければ漢は存続できない。なれば民を守護し、生活を支える事こそが漢の忠臣袁家の仕事である。しかしいつしか漢は民を虐げ始め、それに倣う様に他の太守達も民から搾取してきた。
本来それを正すべき王朝は腐敗し、富に目を眩ませる始末……」
声が震える、これは怒りだ。
「我が英霊達が支えてきたのはそんな王朝に在らず! これ以上民を虐げる大陸を放置し続ける事こそが、我が英霊達に対する最大の裏切り、彼らの功績に対する侮辱である!!
故に我等は、この腐りきった土台から作り直し。大陸としてあるべき姿を取り戻す。
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