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八神家の養父切嗣
五十話:彼の願望
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な決断も合理的な判断の下に下せる。人間は感情があり不完全である故に時に合理的な判断を超えた奇跡を起こす。だが、どちらも中途半端だ。二つが同時に混在するためにどちらの判断が正しいかを悩み結果的に何一つ為すことが出来ない。

「機械以下、人間以下の粗末な不良品に過ぎないんだよ、君達は。意思を持って動く武器なんて、こん棒にも劣る。まだ人間として生きていた方がよほど幸せだったろうに」

 使い手の意思に反して自らの意思で動くような武器はそれ自体が悪夢のようなものだ。簡単に言えば、使い手が気に入らなければ主を殺したり、相手が可愛そうだと判断すれば殺さなかったりするのだ。そのようなことが起こるぐらいならば無手で戦う方が余程ましというものだ。切嗣の言いたいことはそういったことなのだ。

「……まあ、僕には関係のないことだったな。ここにも、もう用はないしね」
「待ってください!」

 自分は何をやっているのだろうかと苦々しい表情を浮かべるがそれも一瞬で消えどこかに歩き去っていく切嗣とアインス。その様子にようやく正気に戻ったフェイトが止まるように声をかける。しかし、彼女の言葉への返答は銃声だった。それも彼女目がけて撃ったものではなく―――培養層に閉じ込められている人々に対してだ。

「なにを…!?」
「僕は忙しいんだ。邪魔をするのならそれ相応の対価は払ってもらう」
「……くっ!」

 つまりフェイトが妨害をするたびに一人ずつ実験体にされている人々を殺していく。そう脅しをかけられたフェイトは動くことが出来なかった。この中で何人が生きているかは分からない。例え生きていたとしても、もう一度社会で生きていける保証はない。それでも彼女には彼らを見捨てるという選択はできなかった。

「相も変わらず甘い……が……それでいい。じゃあね」

 フェイトの甘さに何か思うところがあるような含みのある言葉を残しアインスと切嗣は再び去っていく。―――だが、敵は彼女だけではないことを彼らは失念していた。忽然と空間を飛ぶように二本の(つるぎ)が切嗣に襲い掛かってきた。

(切嗣!)
「ちっ! 跳躍魔法か!?」

 いち早く察知したアインスの警告によりコートを着られながらも間一髪のところで双剣を躱す切嗣。さしもの切嗣もまさか分厚い床下から切り込まれるとは想定していなかった。一方のシャッハは必殺を期して放った奥の手が不発だったことに表情を険しくする。

 一度ネタがばれてしまった以上、二度目は通用しない。それに加え捕らえそこなったためにまたしても人質が殺される可能性ができてしまった。しかし、距離を詰めることが出来た為に切嗣が動いた瞬間に防ぐことも不可能ではない。だが、それは相手も分かっている。人質よりもこちらの動きを優先して警戒してくるだろう。


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