第四話 何とも微妙だよ逃げ切れなかったよ
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とも高揚感とも無縁の果たし方である。文句など言えた立場ではないが、大声で文句を言ってやりたい、文句を。
『帝国貴族は数千家。そして迷子は数千人…なんて冗談じゃねえ!』
泣き叫ぶ男の子と女の子の手を両手に引いて、さらにその数倍の人数を背負ったり背後に引き連れて漫読家、正確にはその役をしている警備の大尉が迷子の子供たちのために『アッテンタートの若君』──神聖王国の奸臣、騎士アッテンタートが国王の飼い猫である太った猫のお守りを任せられてどぶにはまったり、鼠まみれになったりするという場面が良く知られている喜劇、おそらく原作は二十世紀のとある迷、いや名作だろう──の絵本を読んでやっているあずまやのあたりにやってきたときには、俺は脱力感でいっぱいになっていた。
迷子を保護した功も将来的にはコネの素になり、出世の役に立つことは間違いない。
だが、加減を知らない子供の暴れ泣きの凄まじさ、躾のなってない貴族の子供の暴れ方はそんな計画さえ一瞬忘れさせるほどに壮絶だった。
「わあああーーーーーん!!」
「いけません、若様、模型といえど、皇帝陛下の戦艦でございますぞ」
「平民の小娘の頬など打たれては尊いお手に、皇帝陛下から賜ったご家名に傷がつきます」
原作を読んで貴族に言うことをきかせる魔法の呪文を知っているとはいえ、呪文を聞かせるまでが一苦労。癇癪を起こして暴れたあげく戦艦の模型を叩きつけようとする貴族の若君の手を失礼にならないように押さえ、迷子になったのを家臣の子のせいにして制裁しようとするビア樽のような体型の姫君を自尊心に訴えつつ制止するという作業は大変などという代物ではなかった。
「ヨハンだけじゃなく僕ともはぐれてしまって、グレゴールはさぞ心配しているだろうな。父上に叱られていなければいいけれど」
「大丈夫さ。俺と一緒に若様がた姫様がたを護衛していたと言えばいいよ…とりあえずこちらの若様をお慰めしてくれないか」
途中で出会った、家臣と一緒に迷子の弟を探しているうち自分もはぐれてしまったらしい赤毛のまともそうな奴──なんとなくクナップシュタイン男爵に似ている気がする──を上手な嘘のつき方を教えて励ましつつ援軍に引き込んでも、大変さはまるで変わらず。ルドルフ大帝は人生のうちで最も激しい戦いにおいて一秒間に十一回ファイエルと叫んだという伝説があるが、それに匹敵する回数口を開いて手を動かして若様姫様たちの足を前に進ませる作業は幼年学校の入学試験の予想問題よりもライヘンバッハの挑む迷宮入り事件の謎より遥かに難しかった。
「失礼ですが、若様…お付きの者はご一緒ではないのですか?」
幼稚園児ぐらいの姫君を背負い、若君と姫君を一人ずつ手をつなぎ、さらに十人近くを連れてやってきた俺たちに漫読家の役をしていた大尉と、この迷子預り所の副隊長格で
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