第四話 何とも微妙だよ逃げ切れなかったよ
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ッハ家に栄えあれ!」
「栄えあれ!」
大お館様がようやく乾杯の杯を掲げ、一同が唱和すると、伯爵邸の庭園に音楽と待ちかねていた人々の歓談の声、笑い声が満ちた。
新しいマールバッハ伯爵の一門へのお披露目はこれで終わり、あとは無礼講の宴である。
俺もようやく緊張を解くことができてほっと一息だ。
功労者とはいえ単なる縁者で爵位も帝国騎士に過ぎない父上のおまけにすぎない俺はこのお披露目にいかなる責任も負っているわけではないが、粗相をして父上の顔を潰すわけにはいかない。新参者、成り上がり者の気遣いだ。所詮商人といって許されるにも限度がある。まったく、肩が凝ることこの上ない。
疲れを感じた耳に朗らかな音色が聞こえてきた。
お抱えの楽団が青春の女神イドゥンを題材に取った楽曲を奏で、オーディン有数の歌手が神々の黄昏を生き残ったトールの息子マグニの物語を歌いあげた歌を歌う。絵に描いたような自慢丸出しの選曲である。だが誰一人苦笑する者も呆れる者もいない。同じ貧乏伯爵でも成り上がり者が自力でない復活を自慢すれば皮肉の一つも言われたであろうが、名門を超えて屈指の名門といっても過言でない格式を持つマールバッハ伯爵家にそのような口をきく者はもはやおらぬ。
そう、もはや、おらぬ。
五日前、帝国歴四七三年十月二十六日。
『父上が見たらさぞかし目を細めたであろうの』
典礼尚書からマールバッハ家の現状について報告を受けたフリードリヒ四世──皇帝陛下の一言で、廃絶も覚悟しなければならない状態だったマールバッハ伯爵家は十五歳となったオスカー公子、オスカー・フォン・マールバッハを後継者として存続することが認められた。
名門が名門の名にふさわしい勢家に立ち戻った以上、つまらぬ嫉妬心を口にしてマールバッハ一門の、特に家宰様、ロイエンタール男爵の不興を買い不遇を落掌するがごとき愚行は避けるべきであった。なにせ家宰様は金策家としても企業家としても未だ現役なのである。どんなに少なく見積もっても、あと一世紀は伯爵家が再び破綻の淵に突き落とされることはあるまい。むしろ、誼を結ぶことで豊かさのおこぼれにあずかれる可能性の方がはるかに高い。
マールバッハ家の目覚ましい復活ぶりや優れた血統の持ち主を見抜いて縁組し、家運を建て直した伯爵の眼力すなわちマールバッハ家の遺伝子の優秀さ、そんな慧眼の伯爵の血や、ルドルフ大帝以来血を高めることに努力を重ねてきた立派な帝国騎士の血を賞賛し、二つの血を合わせ持つオスカー公子が優れた血をいかんなく発揮しマールバッハ家をかつて以上の隆盛に導くであろうとほめちぎりこそすれ、皮肉ややっかみなど口に出せようはずがない。特にマールバッハ家の家運が傾くや他の権門に尻尾を振っていたような輩──哀れで滑稽な裏切り者たちの名前はその裏切りの数々とともに
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