5/28東おそワンライ
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叩いた。予想だにしなかった事件におそ松は顔を歪ませる。
「…ひとつ聞かせろ、何が不満だ」
苛々とした声色でおそ松にそう尋ねると、透明な涙を流しながら言う。
『みん、なでっ…くらしてたいっ…!みんなどうして、るかなぁ…っ!』
ボロボロと滴を落として、おそ松がそうよわよわしく呟いた。
その言葉でおれは我に返った。
ああ、おれはこいつに無理をさせていたんだ。自分の理想を押しつけて、こいつの意思を全く気にもとめずに、1年間の月日を無駄にしたんだ。
「準備しろ、出掛ける」
おれはおそ松を松野家に返すことにした。あの家族がどうこう言ってくるとは思えなかったし、わざわざ家まで出向いてやって、おそ松を家の中に放り込んだ。
「じゃあな、おそ松…最高の誕生日を」
『あ、ありが…!』
話の途中で引き戸を乱暴に閉める。これ以上この家の近くにいると心臓が止まってしまいそうなくらいに鳴っていた。1年前のあの日、ここからおそ松を拐った。殴って殴って、痛い思いをさせたこともある。ここに来るまで気付かなかった、おれがおそ松のことをここまで大切に考えていたなんて。
おそ松を家に帰して1週間が経った。あれからおそ松とは1度も話していないし、会うこともなかった。おそ松がいなくなった家の中は空気が殺伐としていて、1人でいてもあの事を思いだして、頭が割れそうだった。
少し見に行くくらいならいいだろう、そう思っておれが松野家の前まで行くと、家の中から怒鳴り声が聞こえてきた。
『どこいくんだよ!おそ松!』
『っ、うるさい!ぼくは東郷さんといっしょがいい!おまえらなんかより、ずっとすきだ!』
バタバタと廊下を走った足音が一瞬玄関で止まって、すぐにおそ松が出てきた。
『あっ』
おれを目の前にして突然立ち止まる。
「なんだお前、おれと一緒にいたいのか」
こちらを見て固まるおそ松を嘲笑してそう言うと、意外にも大人しく首を縦に振った。
折角誕生日プレゼントにうちまで送り届けてやったが、こんな状況でまで置いていけるほどおれは律儀な人間じゃあない。胸が安堵でいっぱいになって、おそ松の細い腕をぐっと掴んだ。
「もう逃がさねぇぞ、泣いて喚いても知らねぇからな」
1年前にしたような口調で、脅すようにそう言うとおそ松はへら、と笑って頷いた。
松野家には挨拶なんて必要ないだろう。あいつらはおれがまたおそ松を拐いに来ることをわかっていたにも関わらず、注意を払っていなかったのだから。
愛おしい手つきでおそ松の頭を撫でて、額にキスをした。
『おぢさん、あのね』
抱き抱えるようにしておそ松と一緒に帰路を急いだ。耳元でおそ松の声が、言葉が反芻される。
『だいすき』
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