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剣士さんとドラクエ[
96話 因
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ささやかな願いぐらい叶えるのに。笑っていられない状況でも……それぐらいは、みんなも、許してくれると思うし。なのに……。

 ……そうそう、ちょっと思ったんだけど、こんなに魔物が出る中で今更鉄兜で大丈夫なのかな?すぐカチ割られたりしない……?

・・・・

『次は……チェルス。哀れで愚かな賢者の子孫……』

 結い上げたツインテールに赤いスカートを履いたという姿の女は呟く。手には長い杖を持ち、同時に地面から少し彼女は浮いていた。

『それとも先に兄さんをモノにしようかしら。いいえ、あの子は兄さんじゃないわ……兄さんによく似た、兄さんのこども』

 くすくす、くすくす。楽しそうに、楽しそうに、彼女は笑う。恐ろしげな風貌に変貌しているというのに、笑っている姿は……やっぱり恐ろしかった。

 だというのに、懐かしげな色を湛えて、凶悪な殺意ではなくともすれば穏やかなようでもあり。

『……兄さんは決してあたしのモノにならなかったわね……それどころか兄弟の契りすら、破棄しようとして……』

 また、くすくすと嗤う。彼女の目には、遥か昔の、白黒の世界が映っていた。それは、「彼」と「兄」が暮らしていた頃。本当の兄弟ではないが、仲良く過ごしていた頃を。

 互いが互いを殺せないようにする不殺の誓いをたて、兄弟のように過ごしていこうと笑いあった懐かしき日々を。

 それはまだ、暗黒の神が神でなかった……ただの、いうならば「魔族」のような……厳密にはそうではない……頃だった。

 「兄」と血は繋がっていなかった。同じ種族だったのかもしれないが、今はもう、分からない。ただ「兄」は年上で、自分よりいろいろな知識を持ち、自分と共にいた。

 人間のような風貌をした兄は、強かった。そしてひたすら記憶に残る彼は優しかった。……何も知らない無邪気な幼少期は。

『あのこどもの代わりにアーノルドを喚び戻す……あたしには、できるかもしれないわね』

 あんなに聡明だった兄はいつの間にか愚かになってしまった。愚かな彼は人間を守ったし、神として行動すると怒った。

《お前は、どうして変わった?》

 耳に残る忘れられない言葉。変わってなぞいない、変わってなぞいないのに、「兄」は泣いて問うた。だから、いつか目を覚ますように、氷の中に閉じ込めた。「兄」の心を奪った女を殺した。

 そして光の世界を手に入れ、彼に見せようとした矢先……。

『……早くすべての子孫から力を奪い返さなくては』

 「ゼシカ」の姿をした「彼」は、また笑った。
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