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片輪車
3部分:第三章
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そうだね。あたし達はどうなってもいいから」
父「いざって時は何があっても。いいな」
母「ちよを連れ戻す」
父「そうさ。じゃあ今からちょっと行って来る」
 すっと立ち上がる。
父「お坊様をな」
母「そうだね。じゃあ頼むよ」
父「ああ」
 こうして夫は先に部屋を出る。後には妻が残ってそのまま座っている。じっと何かを見据えている。
母「ちよ、何があっても」
 そう呟く。そして場面は暗転する。


 夜になる。豪奢な法衣を身に纏った僧侶が二人の家の夜道の前に立っている。そこには夫婦も一緒である。

父「それでは」
僧「はい」
 僧侶は夫の言葉に丁寧に応える。
父「お願いしますね」
僧「わかりました」
 こくりとその言葉に頷く。穏やかな様子である。
僧「これも御仏の御心です」
父「かたじけのうございます」
僧「それでですが」
 僧侶は夫に顔を向けて問う。
僧「そのあやかしのことですが」
父「それでしたらこれが」
 夫は妻を指し示して述べる。
僧「奥方ですな」
父「ええ。それでこれが」
僧「はい」
父「詳しいです。おい」
母「はい。お坊様」
 僧侶に顔を向けて答える。
母「その化け物ですが」
僧「片輪の火に包まれた車ですな」
母「はい」
 その言葉にこくりと頷く。

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