第二十六話:目覚め、纏うは“吼殻(オリクト)”
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左手に顕現せし【牙】
恵まれなかったっからこそ生まれた、麟斗の強き怒りで発現した力。
これは所謂……この場限りの奇跡―――そう言ってしまえば確かにそれまでだ。
しかしただの偶然のみで起きた奇跡では、断じてなく……以前よりその兆候はあったのだ。
麟斗は時空を超えて、青春の時を二度も味わった者。
それ故に髪色や肉体の変化、父からも母からも遺伝せぬ精神などを持つ至ったとも、推測はできる。
だが同時に冷たく愛の無い、その代わり負担も少ない生活から……温かくとも我が強く、己の想いを根っこから封じ込めようとする生活への、余りに変わり過ぎた環境に付いて行けていないのも事実。
麟斗は俗に言う“特別な存在”では断じてなく、加えてラブコメディ系ライトノベルの主人公でもなく、唐突に別世へ落とされた一般人だからだ。
羆の様な男に理不尽を科せられ、何時までも若い女に己が妄言を押し付けられ、やっと得た安寧も思い込みやルール強制、罵詈雑言に潰される。
そんな生活を、しかも自分の言を通せない生活が幾許も続けば、誰だってねじ曲がってくるだろう。
―――麟斗が『楓子の将来なぞ知った事じゃない』と内心強く思う、黒い方向へと傾いたのも、ある意味では仕方ないのかもしれない。
そんな生活が続いた人間の取る行動は、当然ながら幾つかあるだろうが……麟斗は数ある手段の中でも“順応” は選ばず、“叛逆”は選びきれず、残った“逃避”を選んだ。
その逃避の結果こそが―――麟斗の身に変化が起きるきっかけとなった日に燃やした、麟斗の手で綴られた『黒歴史ノート』。
楓子のとは違い中二病から発生した物ではなく、恨み辛みを能力に変えて書きだされたもの。
まず間違いなく、それが彼の身体を変えた―――今この時に繋がる『元凶』だろう。
そもそも、大きな変化が起きなかったこと自体、可笑しいのだと言わざるを得ない。
例えば食べる事。
普通、人間の味覚は強弱や各個人の好みこそあれど、基本的に元々の感覚から離れる事はないと言って良い。
事故による後天的な物、先天的な障害によるものなど、例外は存在するが……それでも大げさな事柄さえ起きなければ、変化する確率は低い……と言って良いだろう。
そして哀しくも起こり得てしまう変化もまた、『味を感じない』『薄く思えてしまう』『不快感が残る』等の変化に一応は限定されるもの。
―――だから『焼き立ての食事へ生臭味や腐敗臭を感じる』『食べたモノがまず“食べられない物”の味になってしまう』『生の食材が異様に
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