第三部
名誉と誇り
にじゅうはち
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私の船から進路は外れてはいるので、このまま進んできたとしてもかち合う心配はない。
だからといって、手放しで安心できるほど楽観的でもなければ、考えなしでもない。むしろ、外に陣をはった討伐隊のあの数を見れば、こうなることは容易に予想できた。
あれだけの人数がいて、馬鹿正直に私が残したデコイだけを追うようなことは有り得ない。四方八方、とはいかなくとも、ある程度方角を定めての人海戦術がもっとも効率が良い。
空打ったとしても、あとは徐々に包囲網を狭めて行けば良いだけだ。時間は掛かるが、確実な方法である。
であるならば、そうなる前に手を打とう。
「出るぞ。準備しておけ」
「え……? 出るって」
困惑するエリステインに向かって、私はヘルメットの中で不敵に笑う。
「ヴァルクムントを釣る」
―
先遣隊から遅れて森へ入り、数時間が経過しようとしていた。
第2騎士隊を含む混戦部隊は、先遣隊よりも多くの魔物や亜人族との戦闘を繰り広げていた。
軽傷者を出しつつも、1人として脱落者はおらず、まだまだ森の探索を行う余力はある。
数度目の休憩を挟み、ヴァルクムントは手に持った干し肉を引き千切ることなく口へ放り込み、その体格に見合った強靭な顎の力でなんなく咀嚼する。
「こんなんじゃ、腹に溜まりゃしねぇ」
「我慢してください。この大所帯じゃ、料理を作るだけで日を跨いじゃいますよ」
そう言ったヴァルクムントに、同騎士隊の部下が苦笑いで応える。
「わかっちゃいるがよ……」
どうにもならないことと理解しており、別に求めているわけでもないだろう。ヴァルクムントは下顎を撫でると、部下の男に手を差し出す。
部下の男は更に1枚干し肉を取り出して、ヴァルクムントの巨大な手のひらの上に置く。それが一口で放り込まれる様を見て、また苦笑いを溢す。
常人であれば、固い干し肉を何度も噛んでいることで、ある程度の満腹感を覚える。それがただの錯覚であると分かってはいるが、1枚食べるのにも通常食のようにとはいかないものだ。
それをヴァルクムントは、事も無げに丸々1枚口へと放り込み、まるで屋台の串焼きと同じように食してしまうのだ。
いったい普段はどうしているのかと、不思議に思ってします。
部下の男がまだ1枚目の干し肉を食べている側ら、ヴァルクムントは既に干し肉を胃袋へと納め終わり、動物の内臓で作られた水筒で喉を潤しているところであった。
「うっしょお」
ヴァルクムントはおもむろに腰を上げると、部下の男を見下ろす。
同じ隊で長年彼に付き従っているとはいえ、まるで小山のような男から見下ろされる圧迫感と、歴戦の戦士が醸し出す空気に一瞬呑まれてしまう。
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