閑話―桂花―
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いや、描かれていたのは――
「麗覇様!?」
敬愛してやまない袁紹の姿だった。それも抽象画では無く写実的な絵だ。
桂花の中に抑えがたい欲求が湧き上がる。欲しい、どうしてもあれが欲しい。
もしも手に入ったなら家宝となるだろう。華蝶仮面のように懐に入れて置く事は絶対にしない。
様々な保護処理を施し自室に飾る。目が覚めて最初に視界に入るのが主だなんて、それだけで一日が有意義なものに――
「盛り上がっているところ悪いが、渡すとは言っていないぞ」
「そ、そんな! だいたい何故あなたがソレを――」
どうやら途中から口に出していたらしい。そして入手経緯を聞こうとした桂花だが、一つ心当たりがった。
以前の事だ。政務で鬱憤が溜まり、いつもの乱心状態に陥った袁紹が自室に引き篭もる事件があった。
今まで外に飛び出して鬱憤を晴らすまで遊び惚ける袁紹が、自室で大人しくしている。
桂花を含む家臣達が戦慄したのは言うまでもあるまい。一体中で何が行われているか……。
室内を調査する者として星に白羽の矢が立った。彼女であれば何事にも臨機応変に対応できるだろうと、皆の意見が一致したのだ。
ややあって部屋から出てきた星は、縄やら鎖やらを用意して顔が強張っている家臣達に苦笑しながら口を開いた。
『心配はいらない。ただ、主殿は激務で疲れているようだ。しばらくそっとしておこう』
その言葉に皆でほっと胸を撫で下ろしたのを覚えている。
今思えば、一言も袁紹が寝ているなどとは言っていない。つまり――
「麗覇様が自室に篭ったあの時!」
「さすがな桂花。そう、あの時主殿は寝ていたわけではない。自画像を描いていたのだ!」
「それを知った貴方は、その絵を譲ってもらえるように交渉を……」
気が付けば唇を噛んでいた。何たる不覚!
こんな事なら、あの時自分が入室していれば……。
「……要求は何かしら?」
搾り出すような桂花の言葉を聞き、華蝶仮面の口角が上がる。
極端な話、共に仕えている限り華蝶仮面に仕置きする事などいつでも出来る。
それに対して絵は一枚しか無く、喉から手が出るほどの完成度だ。
彼女が交渉に持っていくことじたい想定済み、計画通りである。
だが―――この華蝶仮面は後顧の憂いを残すほど甘くは無い。
「まず、この場を見逃してもらうのが一つ。そして――
今後一切、華蝶仮面の活動に目を瞑ってもらおう」
「な!? そんな事出来るわけないじゃない!」
「そうか、では交渉決れ――」
「ちょ、待ちなさい」
「我がもう一枚描けば万事解決ではないか」
「……」
「……」
空気の読めない男の発言は強かった。
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