第百九話
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事情を知ってるんでしょ?」
――迷いのない表情がこちらを見据えてくる。その神々しさにも似た感覚に、見ていられずに目を背けたくなってしまうが、何とか堪えてアスナへと答えを返す。
「俺からは……言えない。言えるのはそれだけだ」
これはユウキと俺だけの問題ではない――どころか、俺たちはただの部外者なのだから。しかしてアスナはその答えに納得しなかったらしく、見るからに不満げな表情を形作っていく。
「でも――」
「あー、ちょっとすいません」
「うわっ!」
アスナがまだ何かを言いそうになった直前、俺たちの間にぬっとノームの巨漢の影が差した。つい後退りするほどに驚いてしまったが、その顔は見知った顔で――スリーピング・ナイツの一員のテッチだ。
「さっきまでリズたちと話してなかったか……?」
「まあまあ。ユウキの話をしてたと思うんですが……すいません。放っておいてくれますか」
「え?」
つい先程までリズたちと話していたはずのテッチは、相変わらずの柔和な笑みを浮かべながら――真剣な様子を併せ持ちながら、俺たちにそう言い聞かせるように宣言した。まさかそんなことを言われるとは思っていなかったらしく、アスナも驚愕の面もちでテッチを見つめ返した。
「……どういうこと?」
「言葉の通りですよ。ユウキを放っておいてほしいんです」
ユウキが何か大きなことで悩んでいるのは承知の上で、テッチはアスナの威圧的な疑問にも負けず、もう一度俺たちに『放っておいて欲しい』と語る。困ったような笑みを顔に貼り付けながら、テッチはさらに言葉を続けていく。
「恥ずかしながら……色んなVRゲームをスリーピング・ナイツで回ってきましたが、こうして皆さんのように友達が出来るのって、我々にも初めてなんですよ」
「それは……ちょっと意外だな」
ついつい口から出てしまった言葉は本音だ。様々なVRゲームを渡り歩いてきた、とは聞いていたものの、どのゲームでもこのように遊んでいたものかと。それはどうも――と小さく礼をしながら、テッチは一つ咳払いをしておく。
「察しはついてるでしょうが、私たちはそれぞれ変な事情がありましてね。だから……それも初めてなんですよ。ユウキがああやって、私たち以外の友達のことで頭を悩ませるのも」
かの浮遊城において《二刀流》を操っていたキリトに、『自分以上の反応速度』と言わしめるユウキなど、思い当たる節は多々あるが。今はスリーピング・ナイツの事情はともかく、テッチが目を伏せながらそう語る。友達のことで悩む、なんて当たり前のことも――彼女は初めてのことだと。
「だからお願いします。心配してくれるのはありがたいのですが、ユウキを思う存分悩ませてくれませんか」
「…………」
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