眠れ緋の華
眠れ緋の華
会えた時はどれだけ嬉しかったか。
この人と共にいたいと思った。ずっと。
私の夢はその時に生まれた。それが私の夢。ささやかな夢。
戦いの尽きない時代であっても私はこの人と一緒にいたかった。そう思っていた。そう願っていた。二人でずっと生きていたかった。
けれど運命は残酷で。この世にあるものは全て惨くて。私はあの人と別れて。会えなくなって。それで声を出すことも許されなくなった。
流されていくばかりでどうしようもなくなって。ただ言われるままに戦い殺していって。私の前で多くの命が消えて後に残るものは何もなくて。
泣きたくても泣けず。ただ周りの恐れる声を死ぬ間際の声だけを聞いて。私は彷徨って。後ろからは闇だけしか感じられなかった。
その中で生きていくしかなかった私は。何もかもを見たくなくなった。感じたくなくなった。けれど目からも耳からもこの世のことは入ってきて。私を苛んでいってきた。
花さえももう美しく感じなくなった。悲しみだけを感じるだけになってしまっていた。
けれど次第にその悲しみも感じなくなってしまって。感じることは何もなくなった。
あの人が私の前からいなくなって。多くの命を殺めて。私が手に持っているものは何もなくなっていた。闇だけが私を包み込んでいて。
終わる時が来たけれど。あの人はいない。あの人はいなくて憎みたくてもどうしても憎めなかった人も今は消えた。
私は一人。一人だけになってしまった。虚無しかなくて私を覆って。闇の中で私は静かに涙を流したかった。けれどそれもできず。
私は炎の中に崩れ落ちた。後はどうなるのか。
闇が消えて紅蓮になって。私はその中に消えたかった。
眠ってしまいたかった。永遠に。眠ってあの人とまた会いたかった。それが私の願いだった。ただそれだけが。私の願いになっていた。
けれどそれも適わず。私はまた闇の中。闇の中にいる私には眠ることは許されない。底の国にあって私は虚無の中に漂うだけ。
あの人が消えて戦いの中に生きて。多くの命を殺めて心が壊れて。憎みきれない人もいなくなって。私には何もなくなったけれど。それでも私はまだ眠れない。眠るのは何か。あの緋色の花。花は眠れる。私と違って。眠れない私にとって今は花がとてもいとおしい。
いとおしさを忘れかけた私。けれど花を見てそれを思い出す。
あの人のこと。そのことを。かつての幸せはもうないけれど。闇の中で思い出す。それだけが今の私の見たいもの。眠ることを許されない私の。それが見たいもの。
眠れ緋の華 完
2010・8・7
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