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衛宮士郎の新たなる道
第25話 湯ぶねの2人
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だけがいつまでたっても呼ばれ方が苗字だった。
 だがそれは百代自身からの希望も無く、一子との違いも既に明確に表せているので、今さら変える必要性も湧き上がってこないためだった。
 それ故に、この百代の主張は理不尽なモノだが、それでも本人は納得できるものではなかった。

 「いや、だってな。一子と違いが判ってるならこのままでもいいんじゃないか?」

 士郎が正論を言う。
 だがここまで言って引き返す程、百代は聞き分けが良い方では無かった。

 「・・・・・だったら」
 「ん?」
 「だったら明日から――――いや!今から私の事は百代って呼べ」
 「・・・・・・・・・」
 「いいな、そうじゃないと――――」

 何故か泣くぞと言いたくなり口にしようとしたが、それより早く士郎が機先を制す。

 「士郎」
 「・・・・・・・・・?」
 「なら俺の事もこれからは士郎でいいぞ?」
 「は?」
 「いや、何。こんなこと言うのも実はちょっとばかし恥ずかしいんだが、照れ隠しだったのかもしれないんだ。川神から百代と呼び名を変えるのを。――――だからと言う事じゃない・・・・・・いや、そう言う事だな。だから百代も俺の事をこれから士郎って呼んでくれ」

 これでおあいこだろ?と、士郎は照れながら言う。

 「・・・・・・ふん、一応了解してやる。それと」
 「ん?」
 「守られるだけなんて柄じゃないからな、いざという時は私の方こそ守ってやるぞ。士郎」

 先程までの羞恥心が嘘だった様な声音だが、百代の顔は色々な意味で真っ赤になっていた。
 その顔色に対して、百代自身にどれだけの自覚があるのかは分からないが。
 今の2人にとって救いなのは、お互いに顔を見られていない事だろう。
 そんな百代の言葉に、僅かに照れのある心情のまま士郎は頷く。

 「そうか。――――これから改めてよろしくな百代(・・)
 「・・・・・・ああ」

 漸く呼んでもらえたことに、何かふっきれた百代から僅かな苛立ちも消えるのだった。

 「それにしても・・・・・いい月だなぁ」

 士郎の突然の言葉に、百代はつられて夜空の星々よりも多くを照らす満月を見る。
 そして士郎の感想に心から同調する。

 「――――確かに、いい月だ」

 2人は静かな世界で、上がる直前まで湯船の温かさ、それに夜空に輝く星々と綺麗な満月を楽しむのだった。

 
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