第25話 湯ぶねの2人
[5/5]
[8]前話 [9]前 最初 [1]後書き [2]次話
だけがいつまでたっても呼ばれ方が苗字だった。
だがそれは百代自身からの希望も無く、一子との違いも既に明確に表せているので、今さら変える必要性も湧き上がってこないためだった。
それ故に、この百代の主張は理不尽なモノだが、それでも本人は納得できるものではなかった。
「いや、だってな。一子と違いが判ってるならこのままでもいいんじゃないか?」
士郎が正論を言う。
だがここまで言って引き返す程、百代は聞き分けが良い方では無かった。
「・・・・・だったら」
「ん?」
「だったら明日から――――いや!今から私の事は百代って呼べ」
「・・・・・・・・・」
「いいな、そうじゃないと――――」
何故か泣くぞと言いたくなり口にしようとしたが、それより早く士郎が機先を制す。
「士郎」
「・・・・・・・・・?」
「なら俺の事もこれからは士郎でいいぞ?」
「は?」
「いや、何。こんなこと言うのも実はちょっとばかし恥ずかしいんだが、照れ隠しだったのかもしれないんだ。川神から百代と呼び名を変えるのを。――――だからと言う事じゃない・・・・・・いや、そう言う事だな。だから百代も俺の事をこれから士郎って呼んでくれ」
これでおあいこだろ?と、士郎は照れながら言う。
「・・・・・・ふん、一応了解してやる。それと」
「ん?」
「守られるだけなんて柄じゃないからな、いざという時は私の方こそ守ってやるぞ。士郎」
先程までの羞恥心が嘘だった様な声音だが、百代の顔は色々な意味で真っ赤になっていた。
その顔色に対して、百代自身にどれだけの自覚があるのかは分からないが。
今の2人にとって救いなのは、お互いに顔を見られていない事だろう。
そんな百代の言葉に、僅かに照れのある心情のまま士郎は頷く。
「そうか。――――これから改めてよろしくな百代」
「・・・・・・ああ」
漸く呼んでもらえたことに、何かふっきれた百代から僅かな苛立ちも消えるのだった。
「それにしても・・・・・いい月だなぁ」
士郎の突然の言葉に、百代はつられて夜空の星々よりも多くを照らす満月を見る。
そして士郎の感想に心から同調する。
「――――確かに、いい月だ」
2人は静かな世界で、上がる直前まで湯船の温かさ、それに夜空に輝く星々と綺麗な満月を楽しむのだった。
[8]前話 [9]前 最初 [1]後書き [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ