第百八話
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は知る由はなかったが、ユウキとレインがキャリバークエストで二人ではぐれた時、レインに妹がいると聞かされていたらしく。
「なんとなく……なんだけどさ。二人の感じが似てるなって」
「手、離して……ちょっと、勘が鋭すぎだよ。ユウキちゃん」
なんとなくとは言いながらも、確信に満ちた視線と口調でユウキはレインに詰め寄っていく。ひとまず立ち去ろうとした時に掴んだ手を離させると、観念したようにレインは語りだした。
「確かにそう。私はセブン――七色の姉だよ」
「だったら! 早く名乗り出てあげてよ!」
とつとつと語りだしていたレインに対して、大音量のユウキの声が店内に響き渡る。それはいつも朗らかなユウキから発せられた、初めて怒りの感情が込められた声色で。みんな――声をあげたユウキですら、驚愕に場の雰囲気が凍りついた。
「……ユウキ?」
「ごめん……でもレイン。姉だって言ってあげてよ。ああ見えて、セブンは――」
「――無理だよ。あんなに七色は立派になってるのに、私はまだ何も出来てない! お姉ちゃんなんて名乗れない!」
生き別れた姉と再会するために、とにかく有名になろうとしたセブンの思惑とは裏腹に。妹とは違うという思いに駆られて、レインもまた大声でユウキのことを否定する。差し出されたミルクコーヒーを飲み干すと、レインはこれ以上話すことはないとばかりに、店の外へ出ようとする。
「レイン!」
「コーヒーごちそうさま、ショウキくん。……だから私は、私自身がセブンの姉だって名乗るに相応しい人間になるまで、あの子をこうして手伝うって決めたんだから」
自分自身が納得出来るような人間になるまで、リアルの顔が分からないこのVRMMORPGで、妹であるセブンのことを手助けする――そう決意した彼女は知らない。妹は姉に名乗り出てもらうために、このVRMMORPGをプレイしているということを。
「なんでかな……こんなに近くにいるのに。いつでも会えるのに……ボクと……違って……」
「ユウキ……」
レインが出て行った出張場の店内で、ユウキは手持ち無沙汰にコーヒーをスプーンでかき混ぜながら、うわごとのように何かを呟いていた。たまらず話しかけてみると――彼女の瞳には、涙がにじんでいて。それでもこちらの心配そうな表情を見たユウキは、無理やりにでも微笑んだ。
「ねぇショウキ……難しいね。VRMMORPGって」
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