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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第八十三話 イゼルローン
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■ 帝国暦487年2月15日   イゼルローン要塞 トーマ・フォン・シュトックハウゼン


「オーディンより通達が来たが卿はどう思う」
私は、ゼークト大将に通達文を渡し問いかけた。ゼークト大将は眉を寄せて通達文を読むと唸るような声で答えた。
「反乱軍がこの要塞を攻略しようとするか……十分有り得る事であろうな」

「制宙権の保持には固執する必要は無い……妥当な判断だな、シュトックハウゼン司令官」
「ゼークト提督、要塞が無事ならば、一時的に制宙権を奪われても回復は容易いと思うが」
「確かにそうだ。反乱軍は何時までもこの宙域にいることは出来ん。補給が続かんからな」

詰まらなさそうにゼークトが呟く。この男は一見粗野な猛将に見える、しかし実際は違う。積極的であり激しさもあるが用兵家としては安定した力量を持っている。そうでなければイゼルローン要塞駐留艦隊の司令官になれるはずが無い。

「それよりゼークト提督、オーディンは我々の事が大分心配らしいな」
「仕方あるまい。要塞司令官と駐留艦隊司令官の仲の悪さは伝統だ」
「違いない」
私はゼークトの言葉に相槌を打った。

四年前、私とゼークトがオーディンよりイゼルローン要塞に赴任した時、驚いたのは要塞司令部と駐留艦隊司令部の仲の悪さであった。顔を会わせればいがみ合う、相手の足を引っ張る、反乱軍より始末が悪い味方だった。

当初、私もゼークトも前任者のクライスト、ヴァルテンベルクの両大将が更迭される羽目になったのは当人たちの仲の悪さが原因だと思っていた。しかしそうではなかった。これは本人たちよりも周りの影響が大きいだろう。

こうも周囲がいがみ合っていては本人たちとて引き摺られる。帝国軍三長官から“協力せよ”と言われた事の困難さがこの時ようやく理解できた。この中でやっていけるのだろうか? しかし私たちが失敗すればその罰はクライスト、ヴァルテンベルクの両大将よりも酷いものとなるだろう。

この任務の困難さと周囲の環境が、私とゼークトの仲を近づけた。お互いに相手を信じるしかなかった。幕僚どもを叱り付け、渋々ながらも協力させる。常に厳しい態度で幕僚どもに接し、協力して要塞を守る事が大切なのだと言い続けた。

連中の前で弱みは見せられなかった。当然弱みを見せられる相手はゼークトしかいなかった。ゼークトにとっては私しかいない。時に酒を飲みながら、クライスト、ヴァルテンベルクを罵り、更にその前任者たちを呪い、イゼルローン要塞に派遣された事を嘆いた。

国防の第一線を任されるのだ。此処を無事に勤め上げれば上級大将は間違いないだろう。しかし、私もゼークトも二度とこんなところは御免だった。この四年で私もゼークトも随分と年を取った。ここは年寄りのいる場所ではない……。

「そろそろ交代の時
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