第54話 天草四朗という者
[1/3]
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
「先生、わしは、歴史というもんに疎いきに、ご教授願いたいぜよ」
龍馬もまた良順と同じ恰好で良順に尋ねた。
「私は医者だ。そんなに詳しく知っているわけではない。が、知っている限りのことは教えることはできるだろう」
良順はにこりと微笑んだ。
「日本という国は本当に美しい国だとは思わんかね、坂本君」
良順は丁寧に手入れされている庭を見つめて言った。
「そうですね」
龍馬も庭を見つめた。
「日本には四季があり、それは風情がある。が、そういう自然もあるときは人間に牙を剥く時がある」
庭を見つめていた時の顔とは別人のように良順は険しい目つきで龍馬をみつめた。
「それがどういうものか、わかるかね?」
良順が何を言いたいのかわからず、龍馬は頬を小さく掻いた。
「そうですねぇ。地震、山の噴火、大雨、寒波、日照り」
龍馬は思いつく限りの天災を述べて言った。
「そのとおりだ。そのような天災により、農民は泣かされつづけた。そして、重い年貢の取り立てに苦しめられてきた」
良順の言葉に龍馬は頷いた。
「時は、徳川家光公の時代。九州。島原で一揆が勃発した。それは全国に飛び火して最大のものとなったらしい。それこそが、後々にいわれる島原の乱というものだ」
良順はゆっくりとした口調で語りだした。
「ですが、先生。それと、天草四朗とどういう関係があるんかの?」
龍馬は、じれたように良順に言った。
「その乱の首謀者が、天草四朗なんだよ」
「なんじゃと!!」
良順の言葉に龍馬は絶句した。そんなことなどお構いなしに良順は言葉をつなげた。
「もともと、島原はキリシタン大名・有馬晴信様が統治していたところだった。ゆえにキリスト教信仰は盛んだった。が、君も知ってはいるとおもうが、秀吉公の時代からキリシタンは弾圧を受けていた。そして、有馬氏が転封され、代わりに来た松倉氏になると弾圧のほかに年貢の取り立てもひどいものなって行った。干ばつによる不作、徳川への面目、城の改築。そのために財政は圧迫し、米の取れない農家は自分の娘さえ借金にとられる始末。我慢の限界は大きな怒りとなってあふれ出した。それが島原で起きた一揆の簡単な経緯だ」
良順は腕を組んでため息を一つついた。
「いつの時代も農民は、虐げられるものだと思わんかね、坂本君」
良順の言葉に龍馬はただ頷くだけだった。
「ところで、先生。なんで天草が担ぎ出され、死んだ者をいかえらせることができるんですろ?わしは、そこが不思議ぜよ」
龍馬は腕を組んでうなった。
「実はな、坂本君。天草四朗を担ぎ出した人物は農民たちではないのだという説があるんだよ」
良順は意味ありげに微笑んだ。
「実は首謀者は、天草四朗ではなく、公家の近衛卿ともう一人、森宗意軒という謎の人物がかかわっているというの
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ