第二十一話 匂い
[10/11]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
男の腹には禍々しい形状をした剣のようなものが深々と突き刺さっていたのだ。
男は懸命にそれを引き抜こうとし、アスナは縄を切りに全力で二階へ駆けていき、キリトは真下で受け止める準備をした。
だがその甲斐虚しく、男はHPの全てを削られ、脳裏に残るような破砕音を奏でながらポリゴンとなって散っていった。
「わざわざ衆目に晒すほどだ。普通に考えれば、見せしめなんだろうな」
「でもデュエルの winner 表示はどこにもなかったのよ? あなただって知っているでしょう、圏内でダメージを与えるにはデュエルを受けなければ不可能だって!」
知ってるよ、とキリトは言う。
HPへの絶対的不可侵領域である圏内で唯一ダメージを与えられる方法が《決闘》である。
内容は色々あれど、「圏内でダメージが発生する」ということだけは変わらない。
それはつまり「圏内でも死ぬ可能性がある」ということだ。
だから大抵のプレイヤーは決闘のさい《初撃決着モード》を使用する。相手に一撃を入れるかHPを半分まで削るかで勝負が決まるモードだ。
それならばプレイヤー死亡などという結果を出す確率がかなり減る。
けれど、プレイヤー死亡という結果が絶対に近いモードも存在する。それが《全損決着モード》。
相手のHPを削りきるまで終わらない決闘だ。投了できるとはいえ、危険極まりないモードである。
それを悪どくも利用したのが《睡眠PK》という卑劣な行為だ。
開発したのは、もはやアインクラッド全層を脅かす存在。レッドギルド《笑う棺桶》(ラフィン・コフィン)
寝ている相手の手を使い、勝手にウィンドウを操作。決闘メニューを開き《全損決着モード》を選択させーーー後はお察しの通りだ。
それを防ぐためにキリトはアスナの近くで見張っていたのだ。よってたかってくるレッドプレイヤーへの威嚇と防衛として。
《圏内》での殺人といえばこの《睡眠PK》しか存在しない。対策はあれど、犠牲者は少なからず出てしまうのが現実だ。
だが二人とも直感的に感じていた。
この明らかに異質な殺人は、そう簡単に結論が出るものではないと。
「もしこれが《睡眠PK》以外の、システムの抜け穴をついた殺人だとしたら……」
「それは絶対突き止めなくちゃいけないわ。たくさんの被害が出る前に対抗策を公表しないと大変なことになる」
「珍しく気が合うな。その考えには無条件で同意するよ」
ちょっとした皮肉を混ぜてキリトが頷くと、アスナは少々ムスッとした顔で右手を差し出した。
「ならこの件の解決まであなたにも手伝ってもらうわよ。………言っとくけど、昼寝の時間はありませんから」
「寝てたのはそっちだろ」
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ