第二十一話 匂い
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っているリュウヤをキリトは不思議そうに見ていたが、少し間をおいて自らの心情を語り出した。
「あれだけ精力的に攻略してて、レベリングも自分だけじゃなくてギルメンの面倒もちゃんと見て。疲れなんか一切見せてなかったけど………やっぱり疲れてたんだな」
「………」
「ギルドに入るべきだ、なんて言ったのはおれだけど、こんなになるなら言わなければよかったかな」
自嘲気味に吐露されたキリトの感情。攻略組の問題児でもあり、アスナの今の役職へと導いた先導者として、少しばかりの罪悪感と相応の責任を感じているのだろう。
それに対しリュウヤは。
「言葉ってのは……」
「?」
「言葉は、軽い。空気に溶けて消えるように薄く、空を舞うように軽い。だから思いをーーー想いを伝えるには、言葉では軽すぎる。
たとえ本人がその気であっても、その気でなかったとしても。概念が飽和してしまう言葉では最適解を見つけにくく、見つけたとしても不適でないかと不安を持つ」
キリトを見ず、アスナを見ず。視線を宙に漂わせ、昔話を語るようにリュウヤの舌が回る。
「だけどな、言葉が重みを持つ時がある。それがなにかわかるか?」
「………?」
「昔の人はよく言ったもんだよ。“言葉”の語源と言われる『言の葉』っつう表現は皮肉にもほどがある。昔はどうだったか知らねえけど、現代の俺らにとっちゃ皮肉でしかない。
だってそうだろ?『言の葉』ーーー枝についた葉は風に散り、雨に散り。残ったものもやがて変色を始め自らひらひらと地に舞い落ち、土へ還る。それが栄養となり地となり自然の大きな役割を担う」
「………」
「もうわかったろ。言葉が重みを持つのは、そうーーー“時が経った後”だ。
おれはさっき『重みを持つ時がある』と言ったが、正確には『重みを持つ時が来る』だな。
無自覚に放った言葉は、いつの間にか何十倍、何百倍の重さを持って己を攻撃してくる。それこそ気づかないうちに、忘れた後にってな」
リュウヤは語る。己が感情の一端を、淡々に、淡白に、冷淡に。まるで他人事であるかのように、どこでもない場所を見つめながら。
キリトは聴く。リュウヤとは違い、ただリュウヤだけを、リュウヤの瞳の奥を見据えて。腰を据えて聴いていた。
だがリュウヤの視点が定まらないのと同じく、キリトにも据えかねるものがあった。
「っと、ちょっとしゃべりすぎたかな。で、なんの話してたっけ?キリトがアスナを襲おうとした話?」
「そんなことするかっ! ………おれがアスナを見張ってた話じゃなかったか?」
「当たらずも遠からず。ちょっとしっくりこないけど、まあそんな感じの話だっけか。
となると、一日中見張りをしていたキリト殿は大層腹を空かせてるんでしょうね〜」
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