第1章終節 離別のポストリュード 2024/04
死者の想い:絆と証
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? それを言うならば、まずこう言ってもらえないかな? ――――グリセルダと結婚していた私が、彼女を殺すはずがない、と。君の言っていることは、根拠なき糾弾そのものだ」
「いいえ」
グリムロックの否定に、ヨルコが呟くように返す。
ゆっくりと大きく首を振る彼女の目には、明らかな怒りが燃えているように見えた。
「いいえ、違うわ。根拠はある。………リーダーを殺した実行犯は、殺害現場となったフィールドに、無価値と判断したアイテムをそのまま放置していった。それを発見したプレイヤーが、幸いリーダーの名前を知っていて、遺品をギルドホームに届けてくれた。だから私たちは、ここを………この墓標をリーダーのお墓にすると決めたとき、彼女の使っていた剣を根元に置いて、耐久度が減少して消滅するに任せた。でもね………でも、それだけじゃないのよ。皆には言わなかったけど………私は、遺品をもう一つだけ、ここに埋めたの」
言い終えて、ヨルコは墓標の裏を素手で掘り返し始めた。
その場に居る誰もが彼女を見守るなか、やがて立ち上がったヨルコは右手に乗った銀色の小箱を差し出すように見せつけた。
「あっ………《永久保存トリンケット》………!」
女の子が小さく叫ぶ。そして、ヨルコの手に収まる小箱はマスタークラスの細工師だけが作成できる《耐久値無限》の保存箱。その容量の小ささ故に大きなものは保存できないが、アクセサリー類は幾つか仕舞っておける。そして、これに納めたアイテムは、たとえフィールドに置き去りにしたって耐久値が減少することはない。
その蓋をそっと開き、白い絹布の上に乗せられた二つの指輪のうち、銀製で少しだけ大き目な指輪を取り上げてグリムロックに突き出す。
「これは、リーダーがいつも右手の中指に装備していた《黄金林檎》の印章。同じものを私もまだ持っているから比べればすぐ解るわ」
それを戻し、もう一方の黄金に輝く細身のリングをそっと取り出す。
――――形も大きさも、今の私の左手薬指に嵌ったものと同じ指輪を。
「そしてこれは――――これは、彼女がいつだって左手の薬指に嵌めてた、あなたとの結婚指輪よ、グリムロック! 内側に、しっかりとあなたの名前も刻んであるわ! ………この二つの指輪がここにあるということは――――リーダーは、ポータルで圏外に引き出されて殺されたその瞬間、両手にこれらを装備していたという揺るぎない証よ! 違う!? 違うというなら、反論してみせなさいよ!!」
木の幹に預けていた背中が、地面に滑り落ちる。
へたり込んだまま項垂れた私は、ヨルコのすすり泣く音に隠れるように涙を流していた。
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