暁 〜小説投稿サイト〜
ソードアート・オンライン‐黒の幻影‐
第1章終節 離別のポストリュード  2024/04
死者の想い:絆と証
[5/9]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
ことで私のストレージは余すことなくグリムロックの元へと渡り、フレンド登録していたギルドのメンバーとも縁を切り、ギルマスであった私は次期マスターへと権限を譲渡するように設定するだけで離脱に対しては誰かに承認を得る必要はない。私に関わるコミュニティから《Griselda》のネームが消滅したことで、《グリセルダ》のアカウントの消失を演じたのである。
 つまり、システム的には一方的な《財産分配比率 10:0》の一方的な離婚でありながら、プレイヤーの死に付随して《レッドプレイヤーによる捜索妨害》を模倣することで《死別》を暗喩する状況に見せかけたのが、あの後の顛末。とはいえ、実際に指示をくれていたのは今の居場所を与えてくれているクーネさんだけれど。

 話を戻すと、グリムロックの手元にはあの指輪が渡っていなければおかしいのだ。
 それに、私にはどうしても指輪を付け替えてステータスを向上させるという方法が取れなかった。自己満足な理由ではあるけれど、当時の私の両手は既に大切なものでいっぱいになっていたのだから。それを否定するという事は、論理的に考えるならば《自身は指輪を持っていない》から殺人には関与していないという釈明。裏を返せば、指輪について突き崩されれば、殺人についての関与を認めざるをえないという《最後の砦》ということになる。
 けれど、それは今の私でさえ捨てられていない《旦那との本物の絆》。たとえ欺瞞に塗れて生に縋っていようとも、私は………

――――いや、止まってはダメ。

 今が好機とばかりに、グリムロックは畳み掛けるようにキリト君の推理を論破してゆく。
 でも、それは私と彼の絆を否定されていくようで、とても心が痛かった。
 死を偽装して、結婚まで破却した私が抱ける痛みではないかも知れない。それでも、愛する人が歪んでいくなんて、私には耐えられなかった。

 いつの間にか溢れていた涙を拭い、再びベールを握る。それだけで装備していると判定されるのかは知らないけれど、視界の端に表示される隠れ率は依然として90パーセントを越えた数字を維持している。強力な性能のベールに感謝しつつ、私はそのまま歩を進め――――


「ヨルコ、お願い。このまま振り向かないで聞いて」
「…………え?」


 ヨルコの背に身体を預け、耳元に小さく声を落とした。
 一瞬だけ隠れ率の数値が揺らいで50パーセントまで下降するものの、ヨルコは振り向かず一つ頷いて返答を済ませる。隠れ率も再び90代まで戻るのを確認してから、限界まで声を落として再び口を動かす。


「………指輪のことを、思い出して」


 指輪。
 それはスレイド君が黄金林檎に届けてくれた私の遺品。私の死を確実なものにするために創り上げた《嘘の象徴》と、無惨にも打ち棄てたギルドの皆との《
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2025 肥前のポチ