第1章終節 離別のポストリュード 2024/04
死者の想い:絆と証
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移の光に包まれた。
浮遊感の後に、水車の回る長閑な風景から、人の気配のない寂れた景色へと視界が様変わりする。ほんの少しだけ懐かしいような気がするけれど、何を置いても私には為すべきことがある。
目標は主街区の北、フィールドにそびえる十字架の形をした木のオブジェクトを目指してフィールドを駆けた。半年前に彼との別れ際に無言で手渡された《純白のベール》が秘める隠れ率上昇効果を頼りに徘徊するモンスターを遣り過ごしながら、AGIが許す限りの速度で地面を蹴った。
森が急速に流れてゆく。
それはスレイド君と一緒に攻略した《剣の櫃堂》というダンジョンへの順路だった小路。記憶をなぞるように小路を進み、ダンジョンと主街区の中間地点というところで路が二又に別れる。ここを右に向かった先が隠しダンジョン。
そして、左に進んだ先にある丘の頂上には、十字架の木のオブジェクトと《黄金林檎》の仲間が待っている。
――――きっと、殺人プレイヤーも………
「………だから、何だってのよ!?」
止まりそうになる自分に怒鳴りつけて、分かれ道を左へ走り込む。
せっかく踏み出せた。止まってなんていられない。
あの時、スレイド君が私の為に来てくれたのだって、同じくらい怖かったはずなのに。
私だけ止まっているなんて、この世界に負ける以前に自分の弱さに負けてしまうようなことは絶対に嫌だ。
――――第一、スレイド君に出来たのに私に出来ない道理なんてないじゃない!
半ば気合で恐怖を制して、地面を蹴る力をより強める。
やがて緩やかな傾斜が現れ、一息に上り切った先に彼等を視認する。咄嗟に木陰へと身を隠したのは、そこにいた面々と状況によるところが大きかった。
先ず、膝をつく重装備プレイヤー。大きな身体だから、シュミット君だと思う。
その隣に二人で肩を並べているのはカインズ君とヨルコちゃん。交際しているような雰囲気があったから、そのどちらも掛けていないことに安堵が押し寄せる。
でも、胸を撫で下ろすのも束の間、その奥にひっそりと立つ旦那――――グリムロックの姿に喉が狭まる。
旦那は、白と赤の装備で身を固めた女の子に剣を突きつけられて、それを黄金林檎の三人と真っ黒な男の子がそれを見つめている状況だった。
その場に居合わせた全員のカーソルは緑。つまり、犯罪行為が発生していないことを意味する。
というより、この場においては剣を抜いている女の子よりも旦那の方が警戒するべき相手に見えてしまう。半年前のオレンジプレイヤーが私に聞かせた誘拐事件の背景が正しいものであるならば、旦那が私を殺そうとした張本人ということになる。
出任せに聞かされた嘘だと言い聞かせて来たけれど、もし事実であったならば、
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