第11夜 盟約
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時間をかけるのか――母と決定的に違ったのは、ドレッドが関わっているがために不思議が苛立ちへと変換されたことだ。
「……貴様、さっきから黙ってきていればドレッド様に不敬な発言ばかり――!!」
我慢の限界が訪れたステディは前に出た。これまでもこんなことはあり、その度にドレッドに諌められたが、礼儀の本質を理解しないステディは何度でも同じことを繰り返した。
瞬間――途轍もない悪寒が空間を伝播して、ステディは全身の血液が凍りつく錯覚を覚えた。
(なん、だ………この喉元に鋭い氷柱を突きつけられているような感覚は……!?)
今までの人生で一度も遭遇したことのない強烈な本能的警告が全身を強張らせ、息が詰まるような緊張感に締め付けられる。指が微かに震え、顔から血の気が引いて、心臓の鼓動だけが反比例するように激しく脈動する。
トレックに髪を梳かれていた女が動く。彼女の方を向いていなかったトレックには一瞬に見えたろうが、ステディにとっては永遠とも思えるほどに彼女が動き出すのが見えた。女はベンチに座ったまま鋭く地面を蹴り、最小限の浮遊と共に反動で自分が背を向けているこちら側へと移り、そして津語の瞬間には剣の間合いになる位置に辿り着いていた。
移動の風圧でさらさらと空間を流れ落ちる黒髪の隙間から覗く蒼緑の眼光が、人ならざる存在のような異彩な存在感を放っている。まるで敵意に反応して跳ね起きる野生動物のようで――狩れる獲物を狩れるときに狩る絶対的な捕食者にも見える。
ステディは、自分の喉が干上がっていくのを感じた。
(獣……そう、まるで黒い獣だ。この女、まるで一挙種一等速全てが敵を狩る為に存在するようだ。感じる気配に全身を切り刻まれそうなほどに、鋭い――!!)
ドレッドはそんな彼女にも動じずに話を続けたが、この時ステディは自分がここで死ぬかもしれないと本気で考えた。彼女から放たれる気配は「まるで歴戦の戦士に銃口を向けられている」ような本気の殺傷の気配がしたからだ。
めまぐるしいまでの後悔や情報が頭の中を通り過ぎで行く中で、自分の迂闊な行動で起こしてしまった獣を前に、ステディの膝がわらいはじめた頃――凛とした声が空間に響いた。
「ギルティーネさん、剣から手を離して俺の横に」
なんでもない、恐怖も敵意も籠らないそよ風のような言葉をトレックが放ったその瞬間、正面から押し寄せる寒波のような敵意が消えた。自分を殺す相手と見紛ったその女は、まるで女中のように大人しくトレックの隣に控えた。
後に知ったが、女は『鉄の都』のサンテリア機関で重大な問題行動を起こした『人喰いドーラット』だったそうだ。ドレッドはそれを分かっていて、トレックがその女の手綱を握っているのなら協力者にしようと考えていた
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