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満願成呪の奇夜
第10夜 触発
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てるパチパチという音だけが響く空間を塗り潰す、首筋にカミソリを添えられたような鋭い敵意が『トレック以外の全員』に向けて突風のように叩きつけられた。そして、その凄まじい敵意はたった一人の人間から放たれている。

 ギルティーネ・ドーラットだ。

 何の音も言葉も前触れもなく、しかし彼女は剣の柄に明確に手をかけて。その瞳は灯薪の生み出す陰影のせいか、まるで飼い主に危害を加える敵に牙を剥いているかのように鋭く、そして見る物の恐怖を掻きたてる。余りの威圧感に、ステディと呼ばれた少女も控えていたもう一人も手にかけた武器を抜けないまま凍りついた。
 ただ、ドレッドは違った。彼女の凄まじい敵意を浴びて尚、彼はそれを受け流したうえでごく自然体で話を続ける。

「………ドーラット嬢の腹の虫の居所が悪いのなら、この誘いは断ってもらっても構わない。我々だけでは試験を突破できない道理がある訳でもない以上、無理強いをする権利もない。こちらは頭を下げる側、そちらは是非を選ぶ側……駄目なら大人しく引き下がろう」

 不気味なまでに紳士的なドレッドに、トレックはふと疑問を覚えた。
 彼にはまだ、ギルティーネの名前を紹介していない筈だ。なのに彼は「ドーラット嬢」と確かに呼んだ。その理由は俺が見ていた書類から推測したか、或いは予め知っていたかの二つが考えられるが、確認も取らずにいきなり姓を言い当てたり彼女の事を『獣』と称していち早く反応したりしていたことを考えると「予め知っていた」と考えるべきだろう。
 そして彼は「彼女に関わらない方がいい」とも口にしていた筈だ。なのに、このタイミングでどうしてこちらと行動を共にしたいなどと告げたのか。

 考えを纏めるには時間が足りない。だが、一先ずギルティーネの剥き出しの敵意を鎮めなければ平和的な話し合いは望めないだろう。

「ギルティーネさん、剣から手を離して俺の横に」
「………………」

 ギルティーネはこちらの言葉を素直に聞き入れ、剣にかけた手を引いて静かにトレックの横に移動した。押し付けられていた重圧から解放されたドレッドの仲間たちが大きく息を吐きだし、額の汗をぬぐう。
 当のドレッドは相変わらず余裕のある表情をしているが、微かに感心したような目線を送ったのをトレックは見逃さなかった。

(まさかこいつ………今のでわざと揉めさせて、俺とギルティーネさんの関係に探りを入れたのか?)

 もしそうなら――こいつ、相当の食わせ物なのかもしれない。
 
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