第9夜 錯綜
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時気は何故か先端のみ黒く変色する毛先を染めるのにも使用していた。『欠落』持ちには身だしなみに極端にこだわる人と全くこだわらない人でほぼ真っ二つに分かれているが、トレックは小さな身だしなみ程度……普通止まりの拘りだ。
その拘りを貫く事も許されなかった彼女の髪は、女性から見れば「泣いている」のだろう。
それはきっと、灯薪の光が生み出した陰影が目を錯覚させたのだろう――彼女の横顔は何となく、髪が傷んでいることに悲しみを覚えているように見えた。
懐に放り込んでおいた櫛を取り出したトレックは、ギルティーネにそれを手渡した。
「これ使って、髪を梳いて」
手渡された櫛を暫く見つめたギルティーネは――突如として立ち上がる。
急に立ち上がった理由が分からず呆気にとられているトレックを無視したギルティーネはベンチの裏に回ってトレックの背後に立ち、細い指でトレックの髪を掬い――。
「………………」
ものすごく優しい手つきでその金髪を梳きはじめた。
時には優しく、時には強めに、乱れた髪の全てを直線に戻すような華麗な手さばきに暫く呆然としたトレックは、気付く。彼女は致命的な勘違いをしていることに。
「いやいやいや、そうじゃないよ!?俺じゃなくて自分の髪の毛を梳いてって事なんだけど!?」
「………………」
「無視!?」
ギルティーネはサラサラになるまでトレックの髪を櫛で梳きつづける。「もういいから」と頭を動かそうとしたら、鋭い動きで頭を固定され、更に梳かされる。しかもその手つきが母親を連想させるほどに柔らかく、そして暖かい。
(ほんっと、この人何考えてるのか分かんない……)
マジボケなのか人で遊んでいるのかは全く理解できなかったが、予想以上に彼女の髪梳かしが心地よかったためトレックは抵抗を諦めて暫く為されるがままだった。
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