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満願成呪の奇夜
第9夜 錯綜
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んと浮かび上がる安全地帯へ静かに入っていった。



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  ペトロ・カンテラを屋内移動用の高度に降ろし、二人の呪法師が仮設砦の中を歩く。

(外は立派な物だったけど、仮設だけあって中は寂しいものだな……)

 外見は様々な光源によって照らし上げられていたが、立派なのは外の塀だけで内部には建物が僅か数個程度しか存在しない。端の方を見やれば建設中の資材と燃料、薪が積み重なっている。雨避けの屋根や宿舎らしいものはあるが、砦というよりはこの試験の為に仕方なく砦の体を保っているという印象だ。

 しかし、結界の外にあるだけあってその構造は古代史に出てきたそれと全く同じ構造をしている。光源を複数重ねて呪獣の付け入る隙間を排した形状と、薪や油を効率的に補給し、長時間使用するために極めて合理的に設計された構造。
 『樹』の呪法を用いて生成された特殊素材の松明は、蝋燭のように静かに、そして熱した炭より明るく砦の内外を照らしていた。『灯薪(とうしん)』と呼ばれるこの素材はオイルカンテラに比べて大型で持ち運びには不向きだが、多少の雨風程度ならものともせずに一晩しっかり燃え続ける。その抜群の安定性は開発から1600年が経過した現在でも完成された状態で維持されており、料理の火としても使える事から砦の外では必需品の一つに数えられている。

 その『灯薪(とうしん)』の周囲には、まばらに試験を受けた呪法師が集まっていた。武器の整備、精神統一、帰り道でのポジション確認や戦術の変更――この場所で出来ることなどその程度だろう。恐らくは呪法が開発された古代でも、人々はこのように灯に集って戦いの準備を黙々と進めていたのだろう。

 知らぬうちに自分たちも古代の戦士たちと同じ立場に辿り着いたことに不思議な感慨を覚えつつ、トレックとギルティーネは砦の管理者がいる建物へと向かう。呪法教会のシンボルである五芒星の魔法陣を象った旗がはためくそこに待っていたのは、安っぽい椅子に鎮座した正規の呪法師。肘をついたままこちらを一瞥した呪法師は、酷く事務的な男だった。名前を確認すると書類に蝋印を押し、応援の声ひとつかけずに書類をこちらに差し出した。

 一応ながら感謝の意を込めて敬礼してみたが、返礼は返ってこなかった。

 砦の中にある簡素な休憩場所に腰掛けながら、トレックはひと時の休息を取る。これまでの道のりで集中力を使ったこともあってか体に疲労感が押し寄せる。この試験は水や食料の持ち込みが禁じられているため、余計に疲労がたまっている錯覚を覚える。
 戦いに支障を来すほどの疲労ではないが、一度集中が途絶えた状態で直ぐに外に出るのは不安要素がある。
 ギルティーネは相変わらず無表情で直立しているが、彼女も体力の概念がないわけではない筈だ。

「ギルテ
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