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満願成呪の奇夜
第9夜 錯綜
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したくないのは呪法教会の総意だと愚考しておりましたが……何故それを機関に報告せず、また討伐もなされておられないのですか?」
「怒っているのかね?」
「いえ、大法師が耄碌したのなら速やかに邪魔な老害の座る砦の席を空けた方が呪法師全体の効率が高まると考えただけです」

 明らかに不敬に当たる不穏当な発言に、ローレンツは特に怒りを覚えなかった。『欠落』を持つ人間特有の波長のようなものが受け入れられたからだ。呪法師の人間関係は、全て相性で決まる。相性が良ければどんな暴言も受け入れられるし、相性が悪ければどんな綺麗ごとも耐えがたい不快感を与える。そのような意味で、ローレンツとこの教導師は相性が良かっただけだ。

「君は実に合理的だな。確かにその方が効率は良いだろう。だが……現状でこれ以上数を増やしても、『欠落』持ちの出生率が低下し続ける現状ではさしたる増加は望めない」
「戦力補充が望めなくなりますが?」
「たかだか1年分、しかも教会にそのまま昇るかどうかも定かではない一部の呪法師がいなくなるだけで、呪法教会が揺らぐと?……貴殿の心配することではない」

 もう数を増やすほどの時間も残されてはいないからな――と言いかけて、ローレンツは口を閉ざした。気弱な発言は呪法師には必要ない。それに、これはあくまで選定の儀。選ばれし存在を協会に迎え入れるためのものだ。

「あれを倒せる新人が得られるのなら、100の犠牲も安い物よ。残った数個がより強い灯になればそれで良い」

 6つの都の連携が薄まる一方の今、呪法師には象徴が必要だ。鮮烈に時代を彩り、新たな風を巻き起こす古き時代の再来――『新世代』という灯が。

 遠くを見据えるローレンツに対し、教導師の男はもっと近くを見つめる。

(………こちらの気も知らずに呑気な老人だ。あんたの言う『強い灯』を生かすのがこちらの任務なのだぞ?結界の端まで追いやられた貴方と違い、こちらは『朱月の都』の重鎮から仕事を貰っているというのに、勝手な真似をしてくれる……)

 教導師の手には、二束の書類と添付されたモノクロームの写真が握られていた。片側には黒髪の少女の写真。そしてもう片側には、髪の毛先だけ微かに色が違う少し童顔な少年の写真。100の犠牲の中から生き残る素質は十分あるが、絶対ではない。

(基礎教練は叩き込んである筈だし、護衛代わりもつけた。お願いだから死んでくれるなよ?『やり直しは面倒だから』な……)


 教導師が遠い目を向けた仮設砦の方角――その砦の目の前に、一組の呪法師が到着する。

「着いた……折り返し地点」
「………………」
「……行くよ、ギルティーネさん。あまり時間をかけたくはないからね」

 油断なく武器を構えた写真の二人――ギルティーネとトレックは、闇の中央にぽつ
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