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満願成呪の奇夜
第8夜 途絶
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『音』ということになる。
 だから、このチームでは3人が完全に同じ歩幅、同じタイミングの足音で移動する。このリズムから逸れた足音がしたら、それは敵だと言う訳だ。

「思ったより順調だったな。この調子なら無事に帰りつきそうだ」
「油断はしてくれるなよ。お前の油断の巻き添えを喰らって死にたくはない」
「カッ、そりゃこっちの台詞だぜ!やっと下っ端準法師から上に這いあがるチャンスなんだ。最低でも出世するまでは死ねないね!」

 光源杖を指で弄びながら親友が笑う。金と地位に執着心の強い彼は、どうにも呪法師としての『使命感』のようなものが『欠落』してる気がする。だがそれゆえに彼は計算高いし、決して自分だけが高く上ることを優先している訳ではない。
 だからこそ自分も槍使いも彼と共にこうして試験に臨んでいる。僅かでも信用できないのならばこの3人は絶対に並んで戦ってなどいない。呪法師のタッグやチームとは得てしてそういうものだ。信用できない相手同士でつるむなどという「普通の人間がやるようなこと」を、『欠落』ある者は好まない。

「もしもの時はぼくの自慢の槍でフォローするので、きっちり全員で試験に合格しましょう」
「お、頼もしいな。これで心置きなくへマ出来るって訳だ!」
「……助けきれなかったら見捨てますからね。ぼかぁ出来ないことは諦める主義ですから」
「薄情だねぇ。ま、いいか。要は負けなきゃいいだけだろ、負けなきゃ」
「そう言う事だ」

 青年は、気の緩みを除けば行きより帰りの方が安全だと考える。その理由は、帰り道が舗装された道路だからだ。
 砦に辿り着いて初めて気が付いたが、仮設砦から『境の砦』までにはほぼ直通の運搬ルートが存在した。恐らく仮設砦を築く際に使われたもので、直線ルートの近くにある崖の上にあったせいか行きの際は気が付かなかった。また、途中までは平野であるため道路は半ばで途切れているので砦からはその存在が確認できなかったようだ。

 当然ながら、舗装された道は呪獣対策に遮蔽物が減らされ、通常に比べて移動しやすいよう整備されている。片側が崖であるのは注意点だが、逆を言えば崖側からの襲撃はない。

「無事合格したら都のいい店にでも行くか。『潮の都』から生魚の店が出店したって聞いたぜ」
「生魚ぁ?そんなものを食べたら腹を壊すだろ?」
「内陸と違って『潮の都』は生で食べるための知識が豊富らしいから大丈夫だろ。それに噂じゃ海の魚を生きたまま運ぶ呪法具が開発されたらしいしな」
「アコデセワ商会の新商品ですね。文明の発展は有り難いですが、また富が『潮の都』に傾きそうだ……」

 こつ、こつ、こつ。歩幅を変えないまま会話が続く。
 決して気を抜いている訳ではないが、微かな慢心はあったのかもしれない。
 だから。

「それで
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