第7夜 初陣
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耳を劈く異音を立てた歯車は大量の火花を撒き散らし、その火花が吸い込まれるように刀身へ流れていく。橙色の灯を宿した刀身が煌めいた、その刹那。
「―――――ッ!!」
闇を裂くように刃が空間に『線』を引き、なぞられるように呪獣がバラバラに切り裂かれた。
「な………」
間抜けな事に、その呆気ない結末に最も驚いたのは命じたトレック自身だった。
ギルティーネが放った肉眼では捉える事も難しいほどの瞬速の剣裁きは、呪獣の首を横一文字、身体を袈裟掛けに十字に断っていた。再生能力を持つ呪獣は、生半可な攻撃では殺しきれずに体が欠損したまま戦う事もある。それを考慮して、呪獣が多用する腕と相手を知覚する顔を正確に切断するのは確かに理想的な撃破方法だ。
だが、それはあくまで理想であって実践で狙うのは困難だ。そもそも、剣を扱うのが人間である以上、「肉眼で捉えられない速度の斬撃」というのは本人の身体能力が『人間離れ』していなければ不可能だ。
ぐずぐずに崩れて灯りに融けていく呪獣を感情の籠らない目で見送ったギルティーネは、刀身の光を散らせてトレックの方を見た。ペトロ・カンテラに照らされ闇から浮かび上がるしなやかな肢体から「あの」斬撃を繰り出したと思うと、あり得ない光景を見ているような錯覚を覚える。
宝石のように美しく透き通ったその瞳が「もっと獲物を寄越せ」と催促する猟犬のように映ったトレックは、身震いした。もしもその牙が自分へ向けられたら――あれが本当に『人喰い』だったら。
(俺は……こんな闇夜の中に消えるのは御免だ)
無理やり恐怖を抑え込んだトレックは、短く「行くよ」と呟いて歩みを進める。
ギルティーネは、頷きもせずに斜め後ろを着いてくる。
その沈黙が、今のトレックには最も不気味だった。
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